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奪還と強奪
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しおりを挟むあまりにも突然で、信じられないことが次々と起こって頭がついて来ない。ただ、目の前で起こったことに驚いて固まっていることしかできなかった。
「な……に、何が、起こったのですか?猫丸君はどうし……大丈夫なのですか?」
聞かずにはいられなかった。素直に教えてくれるとは思っていなかったが、それでも他に言葉が見つからない。沈黙が耐えられない。
ただ小紅は、何が起こったのか、今はどんな状況なのかを知る必要があった。聞いたのはもはや本能なのかもしれないな。
無意識なのだろう。不安で不安で、小刻みに震える右手が黒鷹のこげ茶色の袖をつまんでいる。
目が合った。赤黒い瞳に映る黒鷹は小紅の頭をポンポンと撫でると、背中を押して鳶の元へと押し出す。
「大丈夫だから、鳶と一緒にいてね。僕はちょっと、あっちの様子を見に行くから。くれぐれも、ついて来ないように」
そう言いながらニコッと微笑むと、小紅の手を離してゆっくりと歩き去ってしまった。こっちはもう大丈夫だからと庭の、沖田と松原のところへ行ったのだろう。
寸の間、山崎が去っていった方角に目を向けたまま微動だにしなかった黒鷹は。果たしてこの時何を感じ何を考えていたのか?
静かで、落ち着いていて空気がシンとしていた。彼が纏う空気に不可視の圧がかかっているようだった。
言葉の1つ1つに重みがあり口をはさむこともできず、それは彼が内心怒っていることを表していた。
それに気づいたから鳶は、片腕で眠る猫丸を抱きかかえ、もう片方の手で小紅の肩を叩いて手招き。ボロボロになった牢を出てどこかへと向かう。
ようやく先の襲撃による屋敷の修繕が終わると思ったのに。今度は牢を、壁ごと破壊されてしまった。直るまで何日かかることやら。
小姓として黒鷹についていきたい、そばにいたい。けれど彼がそれを許さない。彼の怒りに燃える青い瞳が、小紅に動くこともしゃべることも許さなかった。
小姓なのに突き放される。まだまだ、そばで過ごす時間は少なくズキッと胸が痛んだ。自分は何のために黒鷹に甘やかされているんだろうと。
眠る猫丸。黙々と背を向けて歩く鳶。気まずくて、自分の無力さに嫌気がさす。
沖田と松原がやってきた目的はわからないが、局中法度があれど戦闘にならないとは言い切れない。もしもそうなってしまったら小紅は、戦いたい。
少しでも力になりたい。鷹の翼の一員として。頭領である黒鷹の小姓として、戦いたい。でも、小紅には力がない。
今は。
苦しい。胸が。胸の奥が苦しくて足が重くなる。鳶から遅れて離れて、曲がり角で姿が見えなくなると口からこぼれ落ちた本音。
「寂しいよ」
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