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奪還と強奪
6P
しおりを挟む「山崎のお坊ちゃん。あんたの目的はこの屋敷でも僕の首でもなく、鳶。正々堂々と殺し合いたいんだろう?今回はちょっと間違ってはいないかい?」
「うるさいっすよ。俺様の任務は屋敷の修復具合を見ることだったんすけど、飽きたんで。わざと見つかるようにして鳶のヤローをおびき出したってわけっすよ。まさか、余計な奴が邪魔してくるとは思わなかったっすけど」
そう言って山崎は小紅に目を向ける。目的を妨害されたとはいえ、小紅の介入は山崎には痛くもかゆくもない。
山崎の目的はただ1つ、鳶。
鳶は忍の世界では“天才”と呼ばれる有名な忍らしい。嫉妬心で勝手に好敵手扱いしている山崎は鳶を超えるため、1対1で本気で戦いたいと常に望んでいる。
しかし山崎は新選組の隊員。私闘はできないのでずっと我慢している、お預け状態。我慢の限界が来たか。
鳶を睨み付ける山崎の深緑色の瞳がギラついている。庭に来ている沖田と松原は「山崎の勝手な行動」と言っていたし、土方にバレれば切腹ものだな。
「“待て”もできない犬は捨てられるよ。もしくは…………可愛い猫に喰われるぞ」
忠犬の皮を被った駄犬の山崎。そんな彼を、黒鷹は腕組みをして「くっくっくっ」と笑う。
猫に喰われるとは、どういう意味なのだろうと小紅が首をひねった瞬間、それまでずっと静かにおとなしく捕まっていた猫丸が「にゃー」と鳴いた。
すると一体何が起こったのか、突然巻き起こった強風のせいで目を背けている間に山崎の悲鳴が上がった。
そして強風が止んで再び目を向けるとそこにいるのは、腕や肩から大量の血を流し外へと飛び下がる山崎と深い切り傷を負った他の忍達。
それから、両手と口元を血で真っ赤に染めた猫丸が「グルルルル……」と唸り声を上げながら山崎達を睨み付けている。
そう、彼らをやったのは猫丸だ。指先から突然伸びる鉤爪の暗器を使って斬り裂き、鋭く尖った歯で山崎の腕を食いちぎった。
桜鬼のものとは少し違う、指先に装着する長い爪型の刃物だ。
「く、そっ……こんな子供1人にやられるなんて……次は寝込みを襲ってやるからな!」
何という宣戦布告か、悔しそうに完全に姿を消した山崎達を追おうと身構えた猫丸を、鳶が止めた。
猫丸の前に立ちスッと手で目を覆うと「おやすみ」と呟く。すると、獰猛な獣のような鋭さがあった黒い瞳はまるで催眠術にでもかかったようにトロンととろけ、まぶたで覆われる。
殺気も消えた猫丸はそのまま、鳶の腕の中に倒れ込むと「スゥ……スゥ……」と可愛らしい寝息を立てて眠ってしまった。
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