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影
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しおりを挟むよりいっそうわけがわからない。慈愛に満ちた微笑みを浮かべているが、全くもってわからないぞ。これ以上を知るのは諦めるしかないのだが、気になる。
結局、千歳はモヤモヤが晴れてスッキリ。代わりに小紅がモヤモヤしてしまった。
ニコニコ嬉しそうな千歳に溜め息を吐く小紅。そろそろ雪達の元へ戻ろうかと立ち上がり、障子を開けて外に出る。
ギコギコカンカンカンの音は聞こえない。しかし声は聞こえる、賑やかな声だ。賑やかというより、圧倒的に高遠の怒鳴り声。
雪と喧嘩でもしているのか?猫丸の猫が昼寝場所を求めて邪魔しに来ているのか?それともよそ見でもして、思いっきり指を打ち付けてしまったか。
「若い子は元気で良いわねぇ」
「若い子はって、千歳さんだって十分お若いですよ。先ほどだって角材を切ろうとしてたの、格好よかったです!」
「あら、あれはあの子への嫌がらせだったのに。ちぃはお箸より重たいものは持てないの、覚えておいてね」
どうやら千歳は自分の美貌に相当な自信があるようだ。彼女によると、実は大人の女性に弱いらしい高遠を困らせるためにわざと手伝おうとしていたらしい。
結果、高遠は知ってか知らずか背中を向けたまま作業をしていたので千歳の思惑通りにはいかなかったが。
木材を切るために前かがみになると自己主張の強すぎる胸が丸見え、木材がズレないように踏んで押さえる足は着物がはだけてほぼ付け根まで露わに。
女の艶やかな部分に耐性がない高遠は、桜鬼とはまた違った意味で大人の女性が苦手なのだという。
きっと、女性を好きになったこともないのだろうと笑う千歳だったが。小紅に若いと言われ、よほど嬉しかったのかニコニコしながら頭を撫でている。
「……そういえば。鳶さんと猫丸君は忍なのですね。鳶さんはともかく、猫丸君は驚きました」
「鳶は常にあぁだからね、あれで忍じゃなかったら逆に何なのよって感じよ。丸君は…………まだ子供だからって甘く見ちゃだめよ?」
初めて会っても「あぁ、この人は忍だ」って確信が持てる鳶。普段は町人と同じように着物を着ているとはいえ、口元は常に布で覆っている。
その理由がただ単に酷い人見知りで、顔を見られたくないからだなんて。きっと知っているのは雪と千歳だけ。
物静かで落ち着いている、というか寡黙すぎる。おまけに、本人の自覚なしで普段から足音も気配もない。
その場にいるのに、目を反らして視界に入らなくなれば途端に彼の存在を忘れてしまうほどだ。話を振らないと口さえ開かない。
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