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影
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しおりを挟む小紅はそんな高遠に「わかりました、楽しみに待っていてくださいね」と微笑み、千歳に連れられて客間へと向かう。その微笑みに高遠が顔を赤らめていたのは、果たして誰が気づいたのか。
途中千歳は、猫丸が飼っているのであろうちょっと太った茶色の猫を見つけ、目にも留まらぬ速さで捕まえた。
それはもう人間技とは思えぬほど速く、猫が気づいた時にはすでに千歳の腕の中に納まっていて。観念したのか慣れているのか、千歳の顔を見上げると大人しくうなだれた。
千歳は本当に猫が好きだな。飼っていないのが不思議だが、狐モドキを使役しているのだから飼いたくても飼えないのかもしれない。
「小紅ちゃんは、鷹の翼がなぜ新選組と争っているのか知ってる?」
部屋に着くと、近くに誰もいないことを確認して障子を閉めた。千歳は小紅と向き合うように座り、真剣な面持ちでそう問う。
「そうですね……たしか、先代の頭領である夜鷹様と新選組局長の近藤勇との間でちょっとした喧嘩になったのが原因だと」
「えぇ、それで合ってるわ。じゃあ、どんな喧嘩だったのかは?」
「そこまでは教えてもらってません。ただ、本当にくだらないきっかけだったと」
「…………そう、あえて言わなかったのね。知りたい?全ての元凶が何なのか。今なら小紅ちゃんの返事次第で教えてあげられるわよ」
突然の質問にかなり驚きつつも、小紅は夜鷹と過ごした昔を思い出して答えた。なぜ今そんなことを?
夜鷹と近藤の喧嘩の原因については当人以外誰も知らない。頭領を引き継いだ黒鷹も、副長の土方でさえ知らないのだ。
夜鷹か近藤から情報を買ったのか?部外者で唯一知っている千歳が教えてくれるというのだ、こんな機会はまたとないだろう。
とはいえ、小紅にとってはそこまで気になることではない。情報に見合ったものを差し出さなければならないだろうし、どうしようと悩む。
「ちぃは情報屋。時には確証がない情報を持っているわ。そんな情報は高くは売れない。だから裏付けするの、直接本人に聞いてね」
千歳はコツンと膝が当たるほど距離を詰め、顔を近づける。小紅の赤黒い瞳いっぱいに千歳の顔が映った。
「教えて。小紅ちゃんの父親の名前を」
その質問に答えれば夜鷹と近藤の喧嘩の理由を教えてくれる、というわけか。
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