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影
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しおりを挟む「――ごちそうさまでした。美味しかったです。そういえば、お屋敷の修繕は終わったのですか?」
「んー、もうちょっとってところやな。何事もなけりゃ、今日中に終わると思うで。また手伝うてくれるか?」
「はい、私なんかで良ければぜひ手伝わせてください!重たいものは難しいですが工具の扱いは大丈夫です。あ、寸法を測るのは得意ですよ」
「せやったら測って線を引くんは小紅ちゃんに頼もうかな。今日はほとんど俺っちと高遠だけやろうし、すっごい助かるわ!」
小紅が食べ終わると2人は外に降りて、また聞こえ始めたギコギコカンカンカンの音が聞こえる方へと向かう。
鳶と猫丸は忍だから、交代で山崎を見張っているんだそうだ。和鷹と黒鷹は今日はずっと話をするようなので修繕不参加。
桜鬼にいたってはまだ精神が不安定なんだとかで、黒鷹の命令で桜樹と統合した精神を慣らすために町へと出かけている。
だから修繕は高遠と雪の2人でするしかない。そのはずなのだが、ギコギコカンカンカンの音が重なって聞こえる。現場に2人いるのか?
雪も、そこに高遠と誰がいるのかわからなかったようだ。その人物の姿を明るい茶色の瞳に映すと慌てて駆け寄った。
「アッカーーンッ!!千歳さんはそんなことせんで、俺っち達の仕事なんやからっ!」
勇ましく角材を踏みつけ、金づちを振り上げる千歳に飛びかかった雪はすかさず白く細い手から金づちを奪い取った。
角材を踏んでいる足が、ほぼ付け根のきわどいところまで露出してしまって陶器のような白い肌が際立っている。桜鬼なら一瞬で鼻血を吹いて倒れてしまいそうだな。
突然金づちを奪われてさすがに驚いた千歳は、しかし「ちぃの初体験、だったのになぁ」と寂しそうに唇を尖らせてスッと身を引いた。
「工具に触れたこともない千歳さんがいきなり釘打ちなんてアカンで!ほらぁもう、これ思いっきり曲がっとるやんっ」
「おかしいねぇ。1回打ったら曲がっちゃって、直そうと打ち直したらそうなっちゃったのよ。釘が柔らかいのよ、きっと」
「2回目を打つ前に高遠に声かけてぇな。高遠も、ちゃんと見とらんとアカンやろ」
「あぁ?こっちをやりながらなんて無理だろうが、背中にゃ目はついてねぇんだよ。つーか、こんなに下手くそだとは思わなかったんだ。絶望的だぜ」
せっかく雪が止めに入ったが、時すでに遅し。角材に打ち込まれた釘は、かわいそうなことに半分ほどで真横に折れ曲がったまましっかり角材にめり込んでしまっている。
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