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桜樹と桜鬼
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しおりを挟む「小紅ちゃんのことはまだよくわからないけど、これからどんどん変わっていくような気がする。僕だけじゃない、鷹の翼も他の人達も。良い意味でも悪い意味でも、ね」
そう言って明るく笑ってみせる桜鬼とは裏腹に、小紅は暗い顔をうつむかせる。短刀を握り締めて「そうかもしれませんね」と、呟いた声は震えていた。
自分のせいで鷹の翼の未来は変わる。自分自身の未来も含め、変わってしまう。その自覚があるから否定はできない。
そしてその未来が決して良い未来ではないのだとわかっているから、顔を上げることができない。
そんな小紅でも、桜鬼は信じて待つと言う。断じて余裕をかましてほくそ笑んでいるわけではない。ただの馬鹿というわけでもない。
桜鬼にとって小紅は恋心は別として、信頼するに値する者になった。諦めるとは言っていたが、小紅を想う気持ちは変わらないだろう。
「今の僕を知ったら皆、驚くだろうな。楽しみだ」
「楽しそうですね。良かったです、曲者があなたで」
「あれ、もしかして根に持ってる?こんな時間に不審な呼び出し方だったし、ごめんね。あ、ねぇちょっと!」
実は今日1日、黒鷹と一緒にいて屋敷のことや鷹の翼の組織のことや皆のことを教えてもらっていてかなり疲れていた小紅は、曲者ではなかった安心から強い眠気に襲われていた。
これ以上睡眠時間を削ってまで話すことはないと悟った小紅は一礼し、桜鬼に背を向けて歩き出す。
苦笑しつつも慌てて後を追う桜鬼は隣に並び、顔を覗き込むようにしてこう言った。
「どうもありがとう。僕はもう、大丈夫」
思いもよらない言葉に小紅はピタリと足を止めた。懐かしい言葉。同時に桜鬼が顔を上げて警戒態勢をとる。小紅も下げていた短刀を鞘から抜いて構えた。
微笑み合っていたのに、一気にまとう雰囲気を緊張へと変える。
「本物の曲者、ですね」
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