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桜樹と桜鬼
10P
しおりを挟む――深夜。小紅はパチッと目を覚まし手早く着替えると護身用の短刀を手に外に出る。
物音を、足音を立てないよう細心の注意を払いながら。気配もできるだけ消して、感じる気配の方へとゆっくり近づいていく。
部屋の前から中庭へ、中庭から屋敷の外に出て裏へ。そこでようやく小紅を起こした怪しい気配の正体を見つけ、構えていた短刀を下ろす。
「やっぱりなぁ。君なら気づいて出てくると思ったよ」
「なぜ、私を試すようなことを?私が何者なのか、黒鷹様に突き止めるよう言われたのですか?」
「今までの君を見ててさ、やっぱり小紅ちゃんはただ者じゃないって思ったんだ。深く問い詰めようとは思ってない、話す時が来れば話してくれるって言ったあの言葉を信じてみることにしたから」
「その優しさがいずれあだとなりますよ、きっと。優しすぎますから、桜鬼さんは」
そこで待っていたのは桜鬼。普段の彼の気配なら小紅にはすぐにわかったはず。なのに侵入者かもしれないと警戒してここまでやってきたのは、目の前にいる彼がいつもと違うから。
見た目はいつもの桜鬼なのに、纏っている雰囲気が違う。彼の違和感に、もしかしたら変装した侵入者かもしれないと短刀は下げても警戒を解くことはできない。
今も、そこにいるのが本当に桜鬼なのかわからない。妙なのだ。だからジリジリと距離を取って首をかしげる。
「今の僕がわからないんだろ?大丈夫、小紅ちゃんが何となく感じている通り、今の僕は“おうき”だよ」
小紅の前で勇ましくも優しく微笑む彼は“桜鬼”であり“桜樹”でもある。違和感の正体に小紅は納得し、そこでようやく警戒を解いた。
「僕達、ちゃんと向き合って話をして、手を取り合うことにしたんだ。そうしたらこうなったってわけ」
「お2人が1つになったのですね。いえ、元々1つだった……」
小紅に出会ったことで発作が起こり、桜樹になって殺しかけた。小紅に出会ったことで己と向き合い、改めて受け入れることができた。
このことはまだ黒鷹にも伝えていないらしい。まず先に、きっかけとなった小紅に伝えたかった。
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