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桜樹と桜鬼
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しおりを挟む「こういうことには疎い2人は気づいていないけど、僕と雪と鳶は確信しているよ。桜鬼が本気で君に惚れているってね。って、大丈夫?」
疎い2人とは言うまでもなく、和鷹と高遠のことだ。残りの猫丸はまだ恋愛とか恋だというものが理解できないので話は別。
黒鷹に軽く肩を揺さぶられてようやく我に返った小紅は、赤みが引いた顔を真下に向けた。
「まぁ、考えるだけ考えてあげてよ。あぁ……そろそろ休もうか。ほとんど寝てないんだろう?半刻でも寝ておいた方がいい。1人で眠れないなら僕がここにいるけど?」
「だいじょ………………いえ、すみません。少しだけ、ここにいてくれませんか?」
夜明けは近いが、朝餉にするにはまだ早い。桜樹と黒鷹の戦闘で荒らされた部屋を片付け、敷き直した布団に横になった小紅の傍らに黒鷹が座る。
目を閉じれば鮮明に思い出す、桜樹の狂気に染まった顔や鉤爪の輝きを。そして、死の恐怖を。
1度は遠慮して断ろうとしたが、真剣でまっすぐな黒鷹と目が合うと首を縦に振ってしまう。素直になってしまう。
1人で眠るのは怖い。しかし、いざ黒鷹にそばにいてもらうとまた別の意味で眠れない。
自分が仕える頭、そして異性。緊張して、ドキドキ胸が高鳴ってなかなか眠れない。それに黒鷹が気づかないわけがなく。
彼は小さく笑って背を向けた。こげ茶色の着物に包まれた広い背中が、実際よりもずいぶん大きく見えた。
大きな背中。頼もしい、鷹の翼の頭領の背中。自分のことも仲間のことも、全てを背負っている背中。
小紅には頼もしいのになぜか寂しげにも見えるその背中はどこか、先代の頭領である夜鷹の背中によく似て見えた。
「おやすみ。せめて、夢の中では良い夢を……」
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