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桜樹と桜鬼
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しおりを挟む「ま、待って、足が痺れた……」
「え?痺れたって…………クスッ……面白いお方ですね、黒鷹様は。ふふ、ふふふふ……」
「そんなに笑わないでよ、これでも必死だったんだから。それにしても。紅ちゃんさっき言ったよね、“どっちもおうきさん”だってさ」
黒鷹は腕の中にしっかりとらえた小紅の顔を隠したままそう言い、手拭いを差し出す。すでに着物はかなり色が濃く変わってしまっているが。
「本来のあいつは桜樹の方であって、桜鬼は偽りの人格だと思っていた。でも君が素直にそう言ったから、確かに桜鬼という人格もあいつに変わりはないんだなって思い直したよ」
凶暴な桜樹の人格が元々の人格だろうと、それが“正しい”とは限らない。とはいっても、あとから生まれた穏やかな桜鬼の人格が“正しい”とも限らない。
正しいのは、どんな人格だろうとそれらは全て桜樹だということ。頭ではわかっていても、危険なものは否定してしまうのだ。
「大事なのは、恐れずに全てを受け入れる勇気と心の強さだと思います」
不意に呟いた小紅の言葉に、黒鷹は目を丸くした。それは、黒鷹が鷹の翼の頭領を引き継ぐ時に夜鷹から聞いた言葉。
さすがは親子、といったところか。黒鷹は「クスッ」と笑った。
「羨ましいな……」
「黒鷹様、足は大丈夫ですか?その……あまりこのような格好のままでいると、誰かに見られて変な誤解を生んでしまいそうで……」
「ん?あぁ、いいんじゃないか?変な誤解をされても、僕は構わないけど」
「私が構わなくないのです!あっ、す、すみません。とにかく、申し訳ありませんが足が治ったのでしたらそろそろ離してほしいです」
「えー?しょうがないなぁ。君は変なところが律儀だし、かと思えば大胆で、可愛いよね。桜鬼が惚れるのもよくわかるよ」
黒鷹は笑いながらやっと体を離して、小紅を逃がすまいと拘束していた両腕を組んだ。何か、最後の方で爆弾発言が聞こえた気がしたが。
その発言はどうやら、頬を赤く染めている小紅の耳にもしっかり届いたらしい。ピタリと思考停止したのち、ボボボッと一気に耳まで真っ赤になった。
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