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桜鬼と桜樹
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しおりを挟む寝ている小紅に馬乗りになって、逞しい両手が細い首をつかみ気管を圧迫している。どんどん力が加わってミシミシと音が聞こえるほどだ。
桜鬼は先に部屋に帰って寝たはずだ。なのに、なぜ突然こんなことに?
苦しくて、痛くて、わけが分からなくて。恐怖のあまり何も抵抗できない。されるがまま、赤黒い瞳に涙をにじませ苦しむことしかできない。
ただわかるのは、桜鬼が笑っているということ。
まだ暗くてよくは見えないが、障子越しの月明かりが彼の顔を半分照らしている。まるで別人だ。
ググッと首を締め付ける指先に力が入り、爪が皮膚に食い込む。ニタリと笑う口角は吊り上がり、真っ赤な瞳はギラついていて不気味。
「やぁ、目が覚めたね?僕ねぇ、君みたいなおしとやかで控えめな可愛い女の子が大好きなんだよ。たくさん話をして優しくして、仲良くなったらこうやって襲って壊すんだ」
そう言って彼が興奮気味に腕に体重をかけるといよいよ小紅の意識が遠のく。
「怖い?いいねぇ、その恐怖に満ちた顔。我慢した甲斐があった。とても興奮するよ。あ、寝たらだめだよ。これからじっくり壊していくんだから。まずはどうしよっかなぁ……!」
意識を手放しそうになった瞬間、ドスッ!と腹を殴りつけられた。一気に目が覚め、咳き込もうとしたところでもう片方の手で口を塞がれる。
殴りつけた拳をそのままグリグリとめり込ませ、桜鬼は笑った。
拳を振り上げ、腹部に振り下ろす。ゆっくり振り上げ、一気に振り下ろす。もう1度。もう1度。小紅の顔を見つめながら何度も殴りつける。
その顔は、町で高遠を窒息させかけた時と同じ。拳が振り下ろされるとドスッ!と鈍い音、鋭い痛みが小紅を襲う。振り下ろされるたびに「んっ!」とくぐもった声が漏れる。
これは何だ?痛みと、ただひたすらの恐怖、それから自分に暴力を振るい不気味に笑う桜鬼を見たくなくて、ギュッと目を閉じた。抵抗するのを、諦めた。
何度拳が上下したのか。ふと、その動きが止まった。小紅の口を押さえる手の隙間から、赤い血がにじみ滴り落ちる。
「案外つまんないなぁ。もっとさぁ、泣きわめくとか暴れるとかしてみなよ。あ、そうだ。痛いのがだめなら、こんなことをすればもっといい顔になるかなぁ?くっくっくっくっ……」
抵抗すれば殺される。恐怖に支配されている小紅の頭の中に、抵抗という選択肢はなかった。
ただ耐える。彼の気が済むまで、好きにさせる。それで殺されてしまったらそれまでだ。小紅は自分の命を、大事だとは思っていないのだから。
しかしさすがに、口を塞いでいる方とは逆の右手が夜着の袂から中に入り込むとビクンッ!と体が震えた。
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