鷹の翼

那月

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桜鬼と桜樹

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 もしかしたら町ではずっと我慢していたのかもしれない。我慢して我慢して、帰ってから我慢が爆発して倒れた。そんな気がする。

 桜鬼の気配も感じなくなるとどこか散歩にでも出かけていた眠気が帰ってきたので、小紅も回れ右をして自室へと戻って布団に潜り込む。

 明日になればもっと落ち着いているはず。様子を見て話を聞いてみよう。とか考えながら目を閉じ深く息を吸い込んだ。

 あぁ、眠れる。今日は大したことはしていないのにもう瞼が開かない。意識を手放し、深い眠りへと落ちていく。

 明日こそは仕事をするのか?それとも明後日か?順番的に明日の食事当番は猫丸と鳶だろうなだとか、色々考えながら。

 眠りに落ちるとすぐに夢を見始めた。過去の記憶。夜鷹と近くの山を登った時のこと。

 2人で作ったおにぎりを持って、山頂で夜を明かして日の出を見た。眩しく温かく、2人だけで見た美しい日の出。

 家に戻るまで何事もなく登山を満喫した2日。そのはずだったのに。夢の中では帰り道、突然土砂が崩れてきた。

 手をつないでいたのに土砂にのまれるとともに手が離れ、離れ離れになってしまった。

 激流となり勢いよく斜面を滑り落ちる土砂の勢いが治まり、けれど頭まで埋もれてしまって声が出ない。手足が動かせない。何も見えない真っ暗闇。

 息ができない。動けない。何もできない。苦しい。苦しい。苦しい。

 おかしい。これは夢なのに、まるで本当に息ができないみたいに息苦しい。金縛りにあっているみたいに体がピクリとも動かない。

 苦しくて苦しくて、発狂しそうになった瞬間、ハッと目を覚ました。

「っ、う……は……あっ……!?」

 まだ苦しい、より一層苦しい。それもそのはずだ。小紅は現実で、桜鬼に首を絞められているのだから。

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