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知らぬが仏
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しおりを挟むやっと小姓らしく黒鷹のそばにいられたのに、また離れてしまった。彼は立ち上がる前に小紅を見つめていたが、何を思ってのことか。
「…………や、やっぱり心配です。私も桜鬼さんの元に――」
「やめて、今あなたが行ったら悪化するだけよ。彼のことを思ってくれるならここにいなさい。そんなことより、ちぃはあなたに興味があるの」
桜鬼には大変世話になっている。少しでも何か助けになれることがあればと思って立ち上がろうとして、千歳に手首をつかまれた。
真顔で、首を横に振る。当然彼女は桜鬼が倒れた原因を知っているわけで。そこそこの高値がついているその情報を買う金を小紅は持っていない。
義賊とはいえ、悪名高い鷹の翼の一員である桜鬼の弱点だ。本人の口から聞くほか、小紅に知るすべはない。
自分が桜鬼を助けようとすれば悪化するという意味が分からない。モヤモヤするが、千歳がつかんでいる手を離してくれない。意外と力が強い。
千歳と外とに何度も交互に目を向けて、渋々「わかりました」と唇を噛んで腰を下ろすとようやく手首を離してくれる。
「良い子。ねぇ、クロポンがいたから聞けなかったんだけど。小紅ちゃん………………みえてるでしょ?」
千歳は悔しそうにうつむく小紅の正面に座り直すと手を伸ばし、彼女の顎に手を添えて顔を上げさせた。
少し前傾姿勢になっている千歳の豊かな胸が小紅の目に飛び込んできた。たまらず頬を紅潮させ目を背ける。同性でも鼻血が出そうなほど、刺激が強い。
「ご、ご、ごめんなさい!胸の谷間に紙をはさんでいるのが少し気になっただけです。もう見ないようにするので、どうかお許しくださいっ」
千歳の顔はいたって真剣。小紅も真剣で、正直に白状した。千歳に初めて会った時からずっと気になっていた、妙な場所にある紙に。
豊かな胸の谷間の奥に、紙が数枚挟まれている。彼女が立ったり座ったり、前傾姿勢になった時にチラリチラリと見えていた。
決して下心があったわけではない。ただ、見えてしまうから気になってしまった。1度気付いてしまえば彼女が動くたびに気になって、ついつい目が向いてしまった。
が、どうやら千歳が話したかったことはそのことではなかったらしい。「え?」と黄色の目をパチクリさせ、自分の胸に目を向ける。
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