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知らぬが仏
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しおりを挟む「――よしよし、皆全部食べたね。味付けとか、ほとんどの調理は僕がやったけどおにぎりを握ったのは小紅ちゃんだよ。食べるのがもったいないくらい綺麗な三角だったねぇ?」
しばらくして。全員が食べ終わって膳をまとめていると黒鷹が満足げにそう言った。途端に高遠と和鷹が「げっ」と隠すことなく嫌な顔をする。高遠はその場にいただろうが。
信用ならない者の手で握られたおにぎりを食った。米粒1つ残さず、何となく今日は見た目が綺麗だったなとか不覚にも思いながら食べていた。
やはり盛り付けは女の方が綺麗に盛り付けられる。男のような女と、男ばかりのここでは見た目なんて気にする者はそういない。
食えればいい。1日1食もまともに食べられなかった経験のある者がほとんどなので、そういったところは気にする必要がなかったのだ。
だが、言われてみれば見た目が綺麗なだけで食欲がそそられるような気がする。食べるのが楽しくなるというようなもの。
黒鷹はそれを見越して小紅に握らせた。毒など入れないと信じてもらうためでもあり、彼女が1人の女性であるということを改めて実感させるための密かな策略。
なんだ高遠。それでも「美味かったのは見た目じゃねぇ。頭領の腕だ」とでも言いたげな目をしているな?
口に出さなくても、黒鷹を睨む赤い瞳はそう訴えかけている。口に出せば彼にしばかれるとわかっているから言わないで我慢しているが。
「美味しかったにゃー、いつもよりもずっと」
子供は正直だ。お腹が張ってちょっと眠たそうな猫丸が猫に魚の骨――出汁を取ったあとに焼いたもの――をあげながらそう言った。
それから桜鬼が「可愛い女の子は違うね」と呟き、雪と鳶は同じようにうなずく。
その様子についに高遠は「美味かった」と、とっても小さく呟いて背を向けた。飯の美味さに自尊心が負けたか?小紅に胃袋をつかまれたな。
それでも和鷹は、兄の勝手な行動に呆れ果てたのか溜め息を吐いて膳を片付けに行こうと立ち上がる。
「くだらない。仮にこの子が敵の密偵だとして。女1人に突かれる隙が、お前にあるのか?普段から目つきの悪いお前が、まさか油断しているわけではあるまい」
「何だと?」
「お前だけじゃない。この子にそう簡単にやられるような鷹の翼はここにはいない、そうであろう?それともお前、自身がないのか?こいつら、仲間を見くびっているのか?」
頭領の言葉が、和鷹の足を止めさせた。空気が冷たい。氷点下まで下がったみたいだ。
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