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知らぬが仏
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しおりを挟む黒鷹にそのことを訪ねればその人は所用で遅れているんだそうだ。やってくるのはもう少し後のようなので、黒鷹は小紅に先に寝るように促す。
スッと自分の布団を指さそうとして、またしっかり小紅が青ざめる。だから、やめなさい。小紅で遊ばない。
「クスクス。今日来たばっかりだし、町にも行っているんだから疲れている。精神的にも、ね。明日は朝早いし、彼女と会うのは朝餉の時にでも」
「女性の情報屋なんだ。あ、はい。しかし、その方はもしや今晩ここに泊まられるのでは?やっぱり私、1日くらいお布団がなくても平気ですからっ!」
鳶が運んでくれた自室の布団を客間に戻そうと立ち上がる小紅。彼女の性格を考えればなんとなくそう言われそうだと思っていた黒鷹は、立ち上がって声をかけた。
「あぁ、心配しなくていいよ。あいつはいつも客間を使わない。お気に入りの場所があるから、安心して、暖かい布団で休むといいよ」
客間を使わない、お気に入りの場所で寝る情報屋の女性とは、一体どんな人なのだろう?お気に入りの場所とは?
恐縮しつつも小紅は渋々「そうですか……」とうなだれる。すかさず黒鷹の手が伸びてきて「いい子いい子」と、優しく頭を撫でる。
手の平が温かくて、優しくて、心が安らぐ。桜鬼に撫でられるのとは、また少し違う気がした。ホッと一息つくと急に小紅の体を倦怠感が襲い、足元がふらついた。
疲れている。とっさに黒鷹の逞しい腕に抱き留められ顔を真っ赤に染めながらも、実感した。
早口に礼を言いながら慌てて離れ、忠告通り早めに休むと頭を下げ部屋を出る。障子を閉めると黒鷹の「歓迎しているよ、紅ちゃん。これからもよろしく」という声が聞こえた。
小紅は深々と頭を下げ「もったいなきお言葉。こちらこそ、よろしくお願いいたします」と返し背を向け歩き出す。
お互いの姿を見ずに障子越しとは不思議な挨拶だったが、何だか胸の奥がスッとしたような気がする小紅だった。
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