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つながり
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しおりを挟む自分は夜鷹の娘だから、名乗れば受け入れてもらえる。安易な考えだった。自分は彼らとは全然違う、夜鷹のことをまるで何も知らない愚かな娘。
屋敷の門を叩いてから今まで、彼らと過ごしていて悟ってしまった。彼らこそ、夜鷹の本物の家族なのだと。
広間から井戸は近いので、心配をかけないよう他の人に聞こえないよう人差し指を噛んで声を押し殺す。あらゆる思いがこみ上げてきて噛む力が増す。
口の中いっぱいに血の味がする。どれぐらいの時間そうして泣いていたのか急に、噛んでいた左手を引っ張られた。
「歯形がくっきりだな。世話の焼ける、まったく馬鹿なやつだ」
振り返ろうとすると顔面にビシャッ!と濡れた手拭いを投げつけられ、反射的に右手で手拭いをつかむ。
小紅が口を開くより早く、彼は「それで目を冷やしていろ」と言って、自分は小紅の左人差し指を洗って細く切った布で巻いていく。
なかなかに手際が良い。だが何度も溜め息を吐くのでそのたびに小紅はビクッと震え何も声をかけられず、ただただ濡れた冷たい手拭いで目を押さえていることしかできなかった。
突然のことに涙も止まり、赤みが若干引いた目を確認した彼は「戻るぞ」と小紅の手を引く。
「あ、あのっ…………お手を煩わせてしまって申し訳ございません。その、あ、ありがとうございました」
「ふん。俺は兄上に頼まれてやっただけだ。礼を言うなら俺じゃなくて兄上に言うんだな。はぁ、胸くそ悪い」
そう言うと彼――和鷹は広間に上がり、すっかり冷えてしまった膳に手を付ける。そこにいるのは和鷹と小紅だけ。他は先に食べ終わり、解散している。
今日のところは、ということで黒鷹がそう指示したようだ。逆に気まずいじゃないか。
自分の膳の前に腰を下ろすと「さっさと食え」と言われ食べ始めるも、常にイライラしている和鷹と2人だけでの夕餉は、美味しいものも美味しくなくなるというものだ。
隣からの無言の圧力になんとか急いで夕餉を胃の中に押し込むが、味がわからない。夕餉は確か魚のみそ焼きだったと思うのだが。それも、夜鷹の味を受け継いでいる和鷹が作ったもの。
もう少し、ゆっくり味わって食べたかったなと思ってみても。先に食べ終わっていた彼が自分の膳と重ねて持ち立ち上がる。
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