鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
52 / 386
つながり

11P

しおりを挟む

 自分は夜鷹の娘だから、名乗れば受け入れてもらえる。安易な考えだった。自分は彼らとは全然違う、夜鷹のことをまるで何も知らない愚かな娘。

 屋敷の門を叩いてから今まで、彼らと過ごしていて悟ってしまった。彼らこそ、夜鷹の本物の家族なのだと。

 広間から井戸は近いので、心配をかけないよう他の人に聞こえないよう人差し指を噛んで声を押し殺す。あらゆる思いがこみ上げてきて噛む力が増す。

 口の中いっぱいに血の味がする。どれぐらいの時間そうして泣いていたのか急に、噛んでいた左手を引っ張られた。

「歯形がくっきりだな。世話の焼ける、まったく馬鹿なやつだ」

 振り返ろうとすると顔面にビシャッ!と濡れた手拭いを投げつけられ、反射的に右手で手拭いをつかむ。

 小紅が口を開くより早く、彼は「それで目を冷やしていろ」と言って、自分は小紅の左人差し指を洗って細く切った布で巻いていく。

 なかなかに手際が良い。だが何度も溜め息を吐くのでそのたびに小紅はビクッと震え何も声をかけられず、ただただ濡れた冷たい手拭いで目を押さえていることしかできなかった。

 突然のことに涙も止まり、赤みが若干引いた目を確認した彼は「戻るぞ」と小紅の手を引く。

「あ、あのっ…………お手を煩わせてしまって申し訳ございません。その、あ、ありがとうございました」

「ふん。俺は兄上に頼まれてやっただけだ。礼を言うなら俺じゃなくて兄上に言うんだな。はぁ、胸くそ悪い」

 そう言うと彼――和鷹は広間に上がり、すっかり冷えてしまった膳に手を付ける。そこにいるのは和鷹と小紅だけ。他は先に食べ終わり、解散している。

 今日のところは、ということで黒鷹がそう指示したようだ。逆に気まずいじゃないか。

 自分の膳の前に腰を下ろすと「さっさと食え」と言われ食べ始めるも、常にイライラしている和鷹と2人だけでの夕餉は、美味しいものも美味しくなくなるというものだ。

 隣からの無言の圧力になんとか急いで夕餉を胃の中に押し込むが、味がわからない。夕餉は確か魚のみそ焼きだったと思うのだが。それも、夜鷹の味を受け継いでいる和鷹が作ったもの。

 もう少し、ゆっくり味わって食べたかったなと思ってみても。先に食べ終わっていた彼が自分の膳と重ねて持ち立ち上がる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...