鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
51 / 386
つながり

10P

しおりを挟む

「そういう思いも、少しはありました。でも、ほんのわずかでも夜鷹様と共に暮らした間、あなた方の話をしてくださいました。それはそれは楽しそうで……」

「より一層憎たらしいでしょ。羨ましい?」

「羨ましいですが、憎くはありません。ただ、私が選ばれなかっただけのこと。夜鷹様は大変お優しいお方ですから。あなた方の家族になる方に、明るい未来を見出した。そして夜鷹様が亡くなられたと聞き、彼が愛し遺したあなた方にお会いすることを決意したのです」

「遺した、ねぇ……」

 小紅の言葉は全て事実、真実、本心。要は、夜鷹の遺産である鷹の翼の彼らと会って共に暮らしてみたい。自分が知らない夜鷹を感じたい。そう思っていたということか。

 しかしそれは小紅にだってあてはまることだ。小紅自身、言葉の通り夜鷹が遺した遺産であることに変わりはない。

 小紅がどんな人物であっても、夜鷹と深く関わりのある者同士、平和に暮らしていくことはできないのか?

「実際に会ってみてよくわかりました。悪いことをする方々ですが、中には怖いお方もおいでですが、楽しい人達なんだと。夜鷹様が私ではなくあなた方を選んだのにも、納得です」

 それぞれが抱える闇とまっすぐ向き合い、受け止め、温かい手を差し伸べた夜鷹を心から慕っている。夜鷹が死んで、頭領が黒鷹に代わってもそれは変わらない。

 皆、夜鷹の愛で繋がっている。鷹の翼の絆は強固だ、何者にも断ち切ることなどできない。

 ようやく顔を上げた小紅の頬は濡れていた。笑みを浮かべて「すみません。顔を洗ってきますので、どうぞ召し上がっていてください」と言い残して広間から出て行ってしまう。

 本物の親子でも、過ごした時間は小紅よりも鷹の翼の方が長い。本物の親子でも想いは、注がれた愛は、小紅よりも鷹の翼の方が強い。

 話しながらそれを痛感してしまった。もはや小紅と夜鷹は、親子と呼べる間柄ではないのかもしれない。

「っ、ふ……うぅ……ひっく……」

 日も暮れて凍りそうなほど冷たい井戸の水で顔を洗っても、ズキズキ痛む心から熱い涙があふれ出る。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ワルシャワ蜂起に身を投じた唯一の日本人。わずかな記録しか残らず、彼の存在はほとんど知られてはいない。

上郷 葵
歴史・時代
ワルシャワ蜂起に参加した日本人がいたことをご存知だろうか。 これは、歴史に埋もれ、わずかな記録しか残っていない一人の日本人の話である。 1944年、ドイツ占領下のフランス、パリ。 平凡な一人の日本人青年が、戦争という大きな時代の波に呑み込まれていく。 彼はただ、この曇り空の時代が静かに終わることだけを待ち望むような男だった。 しかし、愛国心あふれる者たちとの交流を深めるうちに、自身の隠れていた部分に気づき始める。 斜に構えた皮肉屋でしかなかったはずの男が、スウェーデン、ポーランド、ソ連、シベリアでの流転や苦難の中でも祖国日本を目指し、長い旅を生き抜こうとする。

岩倉具視――その幽棲の日々

四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】 幕末のある日、調子に乗り過ぎた岩倉具視は(主に公武合体とか和宮降嫁とか)、洛外へと追放される。 切歯扼腕するも、岩倉の家族は着々と岩倉村に住居を手に入れ、それを岩倉の幽居=「ねぐら」とする。 岩倉は宮中から追われたことを根に持ち……否、悶々とする日々を送り、気晴らしに謡曲を吟じる毎日であった。 ある日、岩倉の子どもたちが、岩倉に魚を供するため(岩倉の好物なので)、川へと釣りへ行く。 そこから――ある浪士との邂逅から、岩倉の幽棲――幽居暮らしが変わっていく。 【表紙画像】 「ぐったりにゃんこのホームページ」様より

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...