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着物の色
7P
しおりを挟む片や思い出し笑いのドツボにハマってしまったらしい、声を出さぬように笑いを噛みしめる若い男。片や、脅しで怯んでしまって、そして羞恥に茹でダコ状態になっている若い女。
微笑ましい恋人か。町行く人達はそう思っているに違いない。
そう思われているのかもしれないと思って、小紅はさらに恥ずかしくなって足を止めてしまった。
「私ばっかり恥ずかしい思いをして、ずるいです。だから、桜鬼さんも何か恥ずかしい思いをした話をしてください。1つくらいはありますでしょう?」
「唐突だね。あ、れ……もしかして怒ってる?うわ、怒らせるとこうなるんだ……」
まだ赤い顔を上げて、桜鬼の着物の袖をつかむ。その顔には「納得がいかない」とはっきり書かれているようだ。
しかしまた、いきなり「恥ずかしい思いをした話」とは。完全にへそを曲げてしまっている。
「うーん………………鷹の翼に入る前、ある場所で1日中鎖で繋がれて拘束されていたんだけどね。そこに連れてこられた日、意地を張って厠に行くのを我慢していたんだ。でも丸3日我慢したところでお腹が痛くなって、大も小も漏らしてしまったんだ。って話が1番恥ずかしいかな」
「…………」
どこからつっこめばいいのか。桜鬼は恥ずかしい話のはずなのに特に顔を赤らめることもなく、微笑を浮かべたまま小紅に目を向けた。
まず、恥ずかしい思い出が失禁したことだということ。まぁまぁありがちな話だが、大と小の両方だということと、意地を張ったけれど思った以上に我慢できなかったことが最大の汚点か。
あぁ、これは確かに恥ずかしい話だ。一生忘れることの出来ない、できれば誰にも知られたくない話。
すんなり話してくれたわけだが。問題はその当時の彼の状況か。鷹の翼に入る前だと言っていたが、1日中鎖で繋がれて拘束されていたって。
さも特に重要ではないように話していたが、鎖で繋がれて拘束なんておぞましい状況だ。
何か罪を犯して捕まって牢に入れられていたか。もしくは、悪い人達に捕まって監禁されていたか。そんな状況、大したことじゃないはずがない。
だがしかし、桜鬼にとってそれは“他人に話せる大したことのない話”なのだ。
だから出会ったばかりの小紅に話をし、笑うことができる。微笑を浮かべて「周りの、一緒に閉じ込められていた仲間に一斉に蹴られたよ」なんて言える。
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