鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
38 / 386
着物の色

5P

しおりを挟む

 これがかなりひねくれたというか変わり者なわけで。心が大海原のように広く優しい桜鬼でも返す言葉を見つけられなくなるような、ドン引き発言をするそうだ。

 まともに相手をできるのは黒鷹と夜鷹だけなんだとか。知りたい情報を、巧みな話術で上手く聞き出すことができるのはこの2人だけ。

 桜鬼は「どんな人かは会ってからのお楽しみってことで」と微笑んだ。

 すると小紅の様子がおかしい。長いお経を暗記していて、忘れてしまった部分を何とか思い出そうとしているかのような顔で桜鬼を見上げ、口を開く。

「…………お話します。私のこと、今話せることは全て、夕餉の席で話させてください」

「わかった。黒さんに言っておくよ。その口ぶりからすればまだ、全部は話せないようだね?」

「はい、すみません。どうしても言えないんです。だから、怪しいと思われるのは承知の上で鷹の翼に来たんです。でも必ず、全てを話せる時は来ますから」

 これが温厚な桜鬼ではなく高遠なら、女でも気にせず胸ぐらをつかんで持ち上げ罵詈雑言を浴びせていたに違いない。

 一体なぜ急にそんなことを言い出したのか?それは今夜やってくるのが情報屋、だから。

 それほどまでの情報を持っているのなら当然、小紅が必死に隠し通そうとしている情報も持っている。その情報を、どれほどの価値があるのかはわからないが、黒鷹などに買われてしまえば全てが水の泡。

 どうせ知られてしまうのならと、打ち明けることを選んだ。ただし、情報屋でも知らないであろう深い部分の秘密はまだ伏せておく。

「うん、頑張ってね。それにしても……どうしてそれを頭領である黒さんに言わないで僕なんかに?」

「…………正直に言っていいですか?」

 なぜかと問われればたちまち、今度は苦い丸薬をいくつも噛み潰したような表情になる。言えないのではなく、言いづらいことだ。

 キョトンとする桜鬼が「いいよ」とうなずくと、顔を反らして沈黙したのち、消え入りそうな声で「1番、マトモそうな方だからです」と答えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

連合艦隊司令長官、井上成美

ypaaaaaaa
歴史・時代
2・26事件に端を発する国内の動乱や、日中両国の緊張状態の最中にある1937年1月16日、内々に海軍大臣就任が決定していた米内光政中将が高血圧で倒れた。命には別状がなかったものの、少しの間の病養が必要となった。これを受け、米内は信頼のおける部下として山本五十六を自分の代替として海軍大臣に推薦。そして空席になった連合艦隊司令長官には…。 毎度毎度こんなことがあったらいいな読んで、楽しんで頂いたら幸いです!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

密教僧・空海 魔都平安を疾る

カズ
歴史・時代
唐から帰ってきた空海が、坂上田村麻呂とともに不可解な出来事を解決していく短編小説。

池田恒興

竹井ゴールド
歴史・時代
 織田信長の乳兄弟の池田恒興の生涯の名場面だけを描く。  独断と偏見と創作、年齢不詳は都合良く解釈がかなりあります。  温かい眼で見守って下さい。  不定期掲載です。

処理中です...