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鷹の翼
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しおりを挟む「ったぁー……うぅ。桜鬼、これで足りる?俺っちの全財産なんやけど」
茶色の目に涙をいっぱい溜めて後頭部を押さえる雪が、押し入れから戻ってきた。手には良い感じに太ったきんちゃく袋。
ズッシリ重いきんちゃく袋を受け取った桜鬼は中身を確認、素直に苦笑いを浮かべて「大事な貯金でしょ。これの半分でいいよ、残りは僕が出すから」と言った。
中身を数えて半額を自分の財布に入れ、残り半分をきんちゃくに戻し雪の手に握らせる。
実は、半額も取ってはいなかった。悪戯もするが盗人の集団でもある鷹の翼の一員である桜鬼は、スリの手癖を生かして素早く両替。本当は、3分の1も雪から取っていない。
雪が密かに鳶との結婚記念日のために貯金をしているのを知っていたから。桜鬼は、そういう優しさについては鷹の翼で1番を誇る。
そうして立ち上がると「じゃ、買いに行ってくるよ」と言って部屋を出る桜鬼。出会ったばかりなのに、小紅に似合う着物がわかるのか?
桜鬼が去っていった方角と、きんちゃくを元の場所に片付ける雪とを交互に見つめる小紅はバッ!と立ち上がった。
「私、桜鬼さんと一緒に町に行ってきます!この着物のお礼、必ずしますからっ!」
「ん、別に礼なんてかまへん……あれ、もうおらんやん。足、速いなぁ。猫丸と競走したらどっちが速いんやろな」
雪の呟きは誰の耳にも届かない。鳶と猫丸がせっせと働くガンッガンッギコギコの音にかき消されてしまった。
部屋を飛び出した小紅はすでに姿が見えなくなっていた桜鬼の後を追い、廊下を走る走る。どこを通ったのかわかるようで、すぐにその背中を視界にとらえた。
着物の丈が短くて走りやすかったのか、町娘ではありえない速さの走りを見せた小紅は走りながら「待ってください!」と叫び、止まれずに床を滑って通り過ぎた。
人間、急には止まれません。桜鬼の前でズテンッ!と転んだけれどすぐに自力で立ち上がり、大層驚いた様子の彼を見上げる。
「ご、ご一緒させてください。私の着物なら、自分で選びたい、です……」
いきなり現れた暴れイノシシでも見るような目を向ける桜鬼は、開いた口が塞がらない。しばしの停止ののち、呼吸さえ止めていた彼は息苦しさにハッと我に返った。
慌てて息を吸い込み、大きく吐いて、また吸って。数回瞬きをしてから「驚いた」と、苦笑を浮かべながら頬を掻く。
怪しまれているからとはいえ、小紅が町へ出かけるのに頭領である黒鷹の許可がいるわけではない。とは言っても、小姓の勝手な行動を桜鬼が独断で許すわけもいかない。
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