鷹の翼

那月

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鷹の翼

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 雪は鷹の翼に入ってから鳶と出会い、黒鷹の後押しがあって夫婦になったんだとか。

 鳶があとから鷹の翼に加入、彼も最初は雪が女性だとは思っていなかった。けれど時が経つにつれ真実を、彼女の過去を知る頃には目が離せなくなっていた。

 加入して間もない頃の鳶は、今よりももっと無口。しかも屋敷の中にいるのかさえ分からないほどに存在がなく、しかし雪だけは必ず見つけて声をかけていた。

 まぁ、避けていた。しゃべるのが苦手な鳶にとって長い会話はかなりの疲労を伴う。なので底抜けに明るく、うるさいくらいに絡んでくる雪からいつも逃げていた。

 それでも毎回見つけられてしまうので。まずは、相槌を打つことから始まった。「あぁ」とか「いや」と返答するようになって、次は単語。

 まるで言葉を覚えてしゃべり出した赤ん坊。一方的に自分のことを、それもケラケラと笑いながら面白おかしく話す。辛い過去なのに。

 それが、鳶には苦しかった。その時初めて、自分が雪に好意を抱いているんだと思い知った。

 しかし鳶は極端に口数の少ない男。自分から話しかけるなんてもってのほか。そこで見かねた黒鷹が間を取り持ったのだという。

 だが告白をしたのは雪からで突然、しかも他の仲間がいる前で「俺っち、鳶のお嫁さんになりたいんや」とか言ったらしい。

 これはもう性格云々ではない。とんでもない大物だ。

 と、話してくれている雪はほのかに頬を赤く染めながらで、大層幸せそう。この様子を見る限り、今までの話に嘘偽りがないのは確か。

 小紅を仲間だと受け入れたのか?雪が鷹の翼で唯一の女性だったところに来た2人目の女性だったからか?それとも、ただ単に雪がバカだからか。

「……皆さん、夜鷹様にご恩があるのですね。あの方は、神様のようなお方ですよね」

「神様のような、やのうてほんまもんの神様なんや。俺っちも皆も、夜鷹様に出会わんかったら死んどった。冗談なんかやない。精神的にも肉体的にも、ほんまに死んどった」

 一瞬にして、雪の表情が暗くなった。なぜか真っ白の髪の毛を指でつかみ、そのまま押し黙る。

「雪さん、この着物ありがとうございます。新しいのを買うまでお借りすることになりますが、必ずお返ししますので。それと、私は何をすればいいんでしょうか?」

 なんだか暗い雰囲気になったので話を変えようと、明るい声でそう言った小紅を、雪は愛らしい上目遣いで見上げた。

 小紅の赤黒い目をジィーッと見つめると、花が咲いたようにパッと笑ってこう言った。

「じゃあ、ここに来た本当の目的と素性を吐いてなっ」

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