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鷹の翼
2P
しおりを挟むやっとやたら深い落とし穴の中から出られた小紅は桜鬼の足元にへたり込むこともなく、自分の足で立って深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。あ、桜鬼さんも汚れてしまいましたね、すみませんっ」
「これくらいいいよ。君の方がよっぽど……クスクス…………は、早く着替えた方がいいね。その前に、顔と手を洗いに行こうか」
全身土まみれ。小紅の姿にまた笑い出した桜鬼は笑いのツボが浅いのかもしれない。なんて思いながら、彼女は赤くなることなく呆れた。
さりげなく後ろ手に回された、桜鬼の手。小紅を引き上げるのに使った手を、ググッと握りしめて血がにじんでいたことなど。この時も先にも小紅にはわからなかった。
笑いが治まってきた桜鬼に「井戸はこっちだよ」と案内され、2人で井戸の水で手を洗う。
手や顔についた土は綺麗に洗い流せたが、着物のドロドロ汚れは着替えて洗濯しなければ絶対に落ちない。とはいえ、小紅は着替えを持っていない。
なにせ彼女は、その体1つで鷹の翼の屋敷にやってきたのだから。わけあって住んでいた家もないようなので、新しく買うか誰かのを借りるしかない。無論、買うための金は持っていない。
「うーん、着替えの着物は雪にでも借りた方がいいね。あの子なら2着は、まともなのを持っているだろうし」
そう言って桜鬼は彼らが作業をしている広場へと向かい、小紅も後を追う。歳の割にきわめて小柄だが、雪をすぐに見つけることができた。
というのも、自分の体よりも太く身長の何倍も長い木材を軽々と肩に乗せて運んでいたからだ。
「雪!ゆーきーっ!小紅ちゃんにさ、着物を1着貸してあげてくれない?見ての通り、庭にあった大きな落とし穴に落ちちゃったんだよ。誰のせいだろうねぇ?」
「んんん?あーあれかいな、埋めるの忘れとったわ。ええで。けど俺っちの着物やし、寸法合うか分からへんけど……」
「ちょっと、待っ――!!」
雪が担いでいる木材は大変大きく大変長い。そのまま振り返ればどうなるか?答え。振り向くと同時に木材の向きが変わって2人に襲いかかった。
けれど大事には至らない。2人は素晴らしい反射神経で、ギョッとしつつもしゃがんで避けたのだから。
しかし、屋敷の柱に激突。ドゴンッ!ミシミシミシッ……広場に面した廊下の柱が1本、真ん中あたりで折れ曲がってしまった。
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