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鷹の翼
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しおりを挟む「ぐずっ……っ、う……うぅ、逃げちゃった。ダメなのに…………う、きゃあっ!?」
震える心からあふれ出る涙を拭いながら、あてもなくただ庭を歩き続ける小紅。泣いてはいけない、逃げてはいけない。向き合わないといけない。
頭ではわかっていてもそれができないのが現実。彼らと打ち解けるためにはそばにいて、話をして、生活を共にしなければならない。
その姿勢や努力を必ず、彼らは見ているのだから。良くも悪くも、彼らは小紅をいつも見ている。
だからほら。急に庭に落とし穴が出現して、小紅が見事に落ちてしまったのも見ているのだ。
ザッ。穴のそばにしゃがんで、穴から伸びている小紅の手をツンツンと突っついてみる。頬杖を突いて、もう片方の手を下ろす。
「来て早々に踏んだり蹴ったりだね、クスクス。……あぁごめん、大丈夫?引き上げてほしい?それとも、自力で抜け出してみる?」
肩までズッポリはまって抜けられない。彼女に手を差し出そうとして引っ込めてしまった彼は、涙と土でドロドロになった顔で見上げる彼女に微笑む。
「お、桜鬼、さん……」
小紅は桜鬼の声を聞いた瞬間、青ざめた。しゃがんで見下ろし面白そうに笑う顔を見て、真っ赤になった。彼が、いつになく楽しそうなのだ。
来てくれたのが鷹の翼の中で1番マトモらしい彼で良かったようだが、小紅の無様さに笑いを堪えるのに必死な様子がうかがえる。
手で口元を覆ってはいるが、肩がプルプルと小刻みに震えていて赤い目は彼女の顔にくぎ付けになっている。
穴があったら入りたい。いや、もう実際に入っている。そんな小紅は悔しそうに唇を噛みしめ顔を反らし、結論を出した。
「た、助けてください。お願いします」
「うん、よくできました。じゃあしっかりこの手を握ってて…………よい、しょっと!」
小紅は顔を上げ、土にまみれた手を差し出した。まっすぐ桜鬼を見つめる赤黒い瞳に迷いはなく、彼は笑うのをやめて手をつかむと一気に引っ張り上げた。
自力で、時間をかけて這い上がることもできた。その努力は桜鬼も認めてくれるだろう。
しかし、そうではない。素直に助けを求め、手を取ってもらうことの方が大事だと彼女は考えたのだ。それが正しい結論だったのかどうかはわからない。
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