鷹の翼

那月

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いざ、鷹の巣へ

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「くっ……う、あ、ちくしょ……せっかくこの体を乗っ取って悪戯しようと、ぐ、うわぁぁぁ!……ってなるか」

「うわぁ!?ゴホッゴホッゴホッ……!うぅ……思い切り殴らなくてもいいだろうがっ!」
 首を押さえもだえ苦しむ黒鷹は、しかしフッと冷めた目で和鷹を見据えるとみぞおちに1発拳をめり込ませた。迫真の名演技?

 くぐもった鈍い音が響き、たまらず和鷹は“く”の字に曲がって畳に膝を突いた。激しく咳き込み、涙目で知らん顔の兄を見上げる。

 見かけによらず重い一撃。勘違いの和鷹に合わせた退治される悪霊の迫真の演技といい、涼しい顔で殴りつける姿といい、黒鷹はよくわからない人だ。

 何はともあれこれで和鷹の混乱が収まってきたわけだが。怒りの矛先は黒鷹から小紅に移っただけに過ぎない。

 キッ!と彼女を睨み付けた和鷹は、黒鷹に腕を引かれて彼の隣に腰を下ろした。獰猛な獣よろしく飛びかからないよう、さりげなく黒鷹が和鷹の袴の裾を踏んでいる。

「和、名乗ってあげなさい」

「不審者に名乗る名などない。お前、武家の出か?その姿勢、怯えているようでしっかり見据える力強い目、ただの町人ではないだろう」

「うっ…………町人ではありません、が……わけあって先代の頭領様のお世話になっていたのです」

「先代の?そんなことはあいつらも言ってなかった、初耳だぞ兄上」

「だって言ってないもん。皆にはおいおい、事情を説明しようと思っているよ。今はただ、その時じゃないってだけさ」

 そりゃあここに来て2回も男に怒鳴り散らされては心底怯えるだろう。しかし、彼女は強い。

 和鷹に見抜かれた通り、怯えてはいるがその赤黒い瞳はまっすぐ和鷹を見つめている。普通の町娘なら怖くて目も合わせられないはずだ。

 ではただの町人でなければ何なのか?武家というわけでもなさそうだし、何か深いわけがあって今は話せないようだが。

 絶賛威嚇中の和鷹が、先代の名前が出た瞬間にほんのわずかだけ和らいだ。

 彼らにとって先代の当主、魅堂夜鷹は絶対的な存在。神様以上。それほどに、彼らは夜鷹を心から慕っている。死してなおも慕い続けている。

 たとえもうこの世に居なくても、彼が遺したものを信じ想い続けるのだ。それはもはや、崇拝。

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