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いざ、鷹の巣へ
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しおりを挟む「さて、全員名乗り終わったね。じゃあ次は屋敷の案内だ。君の部屋はしばらく物置…………いや、物置と化している部屋があるから、片づけてそこを使ってもらおう」
「ま、待ってください!まだ、あなたの名前を聞いていません!」
一体何のつもりなのか。青年は5人の名乗りが終わると小紅の手を取って屋敷の中へ上がろうと草履を脱ぐ。
小紅が言う通り、彼はまだ自分の名を名乗っていない。わざとなのか、本当にただ忘れていただけなのか。ニコッと微笑む顔からは感じ取れなかった。
青年は4人に作業に戻るよう促すと、そのまま手を引いて小紅も上がらせた。
殺意こそはないものの、背中に突き刺さるような4つの視線を感じつつ。彼女はされるがまま、手を離してくれない青年の背中を追いかける。
挨拶を交わしたけれど、信用はされていない。それほど、彼らは周りとの関わりを警戒しているのだ。
この青年がいなければ、温厚な桜鬼でも彼女を問い詰めて目的を吐かせるに違いない。見逃せば自分達の命が危険にさらされるかもしれないのだから。
小紅が彼らからの信頼を得るには、これからかなりの時間を要することになるのだろう。心を、強くもたねば数日ともたなくなる。
「あいつ、買い物にでも出かけたのか。いつもなら必ず僕か誰かに声をかけていくのに。……あれ、どうしてそんなにむくれているんだい?」
「あなたが名乗ってくれないからですよ。モヤモヤしたまま私を連れ回して、正直に言って不快です」
「あっはっはっはっ!ごめんごめん、君はすでに僕のことを知っていると思ってね。いや、前頭領の手紙を持っていたし、会ったことがあるんなら僕の話も聞いていただろうしね」
ある部屋の襖を開けて中に誰もいないことを確認すると、青年は小紅に向き直ってまた微笑んだ。
表情とは真逆の、深く突き刺さるような鋭い言葉。明るくしれっと言っているが、目はわずかにも笑っていない。
逆に、彼女はキュッと口を引き結んで眉根を寄せる。握りしめた拳は小刻みに震え、しかしすぐにフッと力が抜けた。
「みっ魅堂、黒鷹様、でしょうか?探しておられるのは弟の和鷹様、ではありませんか?私が本当に先代の頭領様とお会いしているのか、親しかったのか試していたのですね」
まっすぐ彼の青い瞳を見つめる小紅は、しっかりとした口調でそう言った。彼女は確かに先代の頭領の世話になっていた。
この青年と、青年が探している者のことも知っていた。先代の頭領からよく、話を聞かされていたから。
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