鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
5 / 386
いざ、鷹の巣へ

3P

しおりを挟む

 胸元を大きく開けた赤い着物は裾が膝の上まで捲り上げられ、とても動きやすそうだ。きっと普段からよく動いて、走って、吠えまくっているのだろう。そう、狂犬のように。

 高遠の発言に他の4人もそれなりに頷き、青年は腰に手を当てて青い空を仰いだ。

「先代の遺言なんだよ。いつかこの子が訪ねてくるから、その時は必ず拒まずに招き入れること。力になってやりなさいってさ。言われてたの、今思い出した」

 もちろん全員、小紅でさえ初耳だ。ポンと手を打って「最近忘れっぽくてね」と笑う青年に呆れ果てる面々。そしてやっぱり。

「し、し、し、信じられるか、ドアホッ!!」

 小紅に食らいつく勢いで吠えた狂犬は、首に巻いていた手拭いをバシンッ!と地面に叩きつけて去って行ってしまった。

 修復の続きをする気はないらしく、そのまま門を通り過ぎて外へとあっという間に見えなくなった。町へ行ったか。八つ当たりで騒ぎを起こさなければいいが、無理だろうな。

 イライラを爆発させた彼が残した手拭いを拾い上げ、土を叩き落とすのは狂犬の隣にいた背が高い青年。

「悪いね、小紅ちゃん。僕は宗方桜鬼。さっきギャンギャン吠えていたのは高遠だよ。彼はいつもあぁだから、気にすることはないからね」

 初対面であれだけ吠えられれば、気にしないことはできないだろう。たぶん、会うたびにさっきのことを思い出して震えあがる。

 高遠はいつもあんなにイライラしているのか?それはそれで、高遠だって疲れるはず。些細なことでキレて怒鳴り散らすのが彼の厄介すぎる性格だそうだ。

 と、苦笑を浮かべながら「女性や子供への暴力は滅多にない子だから」と言う桜鬼。背中まである青っぽい濃い灰色の髪は高く結われていて、長い前髪は右目を少し隠している。

 奥に見える高遠と同じ赤い瞳は優しく、しゃべり方といい雰囲気といい優しいお兄さん。まるで高遠と正反対。身長を含めた見た目といい性格といい、対極にいる兄弟に見えなくもない。

 血縁関係はないらしい。青地に赤と紫の線が入った着物は半袖で、赤い履き物の膝から下には鈍色の脛当を履いている。

 物腰柔らかく桜鬼に「歳はいくつ?」と聞かれ「18です」と素直に答えた小紅に、彼はまた微笑んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幕末レクイエム―士魂の城よ、散らざる花よ―

馳月基矢
歴史・時代
徳川幕府をやり込めた勢いに乗じ、北進する新政府軍。 新撰組は会津藩と共に、牙を剥く新政府軍を迎え撃つ。 武士の時代、刀の時代は終わりを告げる。 ならば、刀を執る己はどこで滅ぶべきか。 否、ここで滅ぶわけにはいかない。 士魂は花と咲き、決して散らない。 冷徹な戦略眼で時流を見定める新撰組局長、土方歳三。 あやかし狩りの力を持ち、無敵の剣を謳われる斎藤一。 schedule 公開:2019.4.1 連載:2019.4.19-5.1 ( 6:30 & 18:30 )

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...