能ある鬼は角を隠す

見られているということ

１７P

　市之瀬和紗を守るためなら、それでもかまわない。しかしそれは最後の最後だ。なるだけ、そうならないように事が治まれば何も問題はない。


「琴音には私が口封じしておくわぁ。あ、そぉだ。敦彦君を尾行してた男だけど。ぜぇーんぜん悪者じゃなかったわ。山菜売りを始めたばっかりだけど売り上げが悪くて敦彦君に買ってほしくて追いかけただけ」


「え？で、でも、話しかけてこないし振り向くと山菜を探すフリをしていましたよ？」


「あなたが敦彦君だとはわかったけど、本当に人間だったらって思うと怖かったんですってぇ。失禁までさせちゃって、悪いことをしちゃったわぁ」


「は、はぁ……申し訳ない、ですね。また町で見かけたら、お詫びに山菜を買い占めます」


　何と思わせぶりな。どこからかやってきた三毛猫が、華南の足に擦りついてきた。華南はその三毛猫を抱き上げ、苦笑い。


　敦彦は確かに、山の中で自分に向けられた殺意を感じていた。それは山菜取りの男ではなく、その時から近くで息をひそめていたクロキツネのものだったか。


　家を出てから少しの時間だったが、和彦は自分が見られていると痛感した。もっと常に気を引き締めていなければ。


　気が抜けない。和紗が鬼神を襲名するまで。いや、襲名したらしたで、和紗をそばで守る者としてもっと気が抜けなくなるかもしれない。


　逆に、もしも和紗ではない別の鬼が鬼神を襲名すれば。今度は、和紗を見張る者として気が抜けなくなる。