能ある鬼は角を隠す

那月

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逃した魚は大きいし美味い

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 2つの弾丸がめり込んだのは敦彦の体ではなく、太い薪。ちょうど、右京が敦彦にぶつけた大きく重い魚と同じくらいか。


 敦彦はそんな太い薪を、釣竿の先についている釣り針にひっかけて手繰り寄せ盾にした。


 冷静かつ素早い判断と、腕力と巧みな操作能力。右京も左京も、そして和紗も、とてもじゃないが敦彦にこんなことができるとは思えなかった。


 信じられないといった顔で膝をつき、両手に握る銃をダランと下げた右京。背に庇うように前に出て鋭い目つきで敦彦を睨み付ける左京。


「お前、誰だ?」


「…………」


 こいつは駿河敦彦ではない。そう感じた左京が、険しい表情が、長い沈黙に少しずつ崩れていく。目を細めて、細めて、やがて「まさか」と。


 敦彦の姿をした鬼は、ニコッと笑った。無邪気な笑顔と共に、額から4本の角が生えた。左右対称の、やや長い角のすぐ外側に短い角。


「もう、そのくらいにしてあげてください。親子でもわからないんだから相当混乱してるじゃないですか、華南様」


 角が生えた敦彦の隣に、角のない敦彦が並ぶ。釣竿を持った敦彦は「だってぇ」と苦笑。木刀を2本持った敦彦は溜め息を吐き、一部が焦げて欠けている木刀を和紗の手に。


「あ、あつ君?じゃあ、こっちのあつ君は、誰なの……?え、待って。今、『華南様』って言った?」


「「おっ、おふくろぉっ!!?」」


「はぁーい、大正解。私はあなた達の区別がつくのに、あなた達は私の変身を見抜けないのね?悲しいわぁ」


 釣竿を持った、角が生えた敦彦の姿がかすみ揺らめく。グニャグニャと歪んで、まるで霞が晴れるように霧散するとあとには4本の角を生やした女鬼が姿を現した。


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