惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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永遠の鬼ごっこ

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「私を…………鬼にしてください」


 肩の下あたりまであった髪が、男らしく首までの長さになった。両頬にかかっている髪はまだ長いが、彼の決意は十分伝わった。


 淡い紫色の瞳がまっすぐ俺を見つめる。強い光だ。もう、迷いはない。


「わかった。そっちを選んでくれて、ありがとう」


 俺は彼の手からハサミを借り、開いて強く刃を握り滑らせる。空いている右手で彼の顎を上に向けさせると、手の平から流れ出る赤い血を彼の口元へと持って行った。


 一瞬はギョッと驚いていたが。どうすればいいのか悟った歌磨呂は目を閉じて口を開き、生暖かい俺の――鬼の血を口にした。


 ゴクンッと喉の奥に流し込んだのを確認すると俺は手を開いてハサミを外す。みるみるうちに傷口がふさがっていく。


 俺の血は酒呑童子を完全に呼び覚ますための、いわば呼び水のようなものだ。


 俺の血をきっかけに、歌磨呂の中の酒呑童子の血液、細胞が目を覚ます。まるでオセロの白が黒にひっくり変わるように体を鬼へと作り替えていく。人間の体から鬼の体へと変わるのだ。


「っあ!ん、う……はっ、あぁぁ、ぐ、っうぅぅ……っ!!」


 当然、今まで味わったことのない激痛が体中を駆け巡る。


 体の痛みに彼は震え、耐え抜こうと懸命に自分の体に爪を立て唇を噛みしめる。もう少しの辛抱だ。しばらくすれば基礎が作り替わり、発作はなくなる。


 まだ、完全に鬼になるわけじゃない。何日もかけて全ての細胞が鬼のものになる、痛みを伴うことはもうない……たぶん。


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