惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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親友と金魚のフン

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 酒呑童子の全身から放たれた殺気が、全て朔に向けられている。鋭利な刃物で何度も斬りつけられるような、そんな痛みすら感じてしまうほどの殺気。


 朔は一瞬目を見開き、フッと笑った。


「わかったよ。怖がらせちゃってごめんね、惰眠童子」


 朔は笑いながら「痛いよー」と泣きつき、酒呑童子は小さくため息をついて渋々手を離した。


 殺気も治まり、表情も元の柔らかいものに戻った彼はバツが悪そうな顔で竿を振り、川に糸を垂らす。釣り、やっぱりするんだな。


「そっか。ここ数年君が大人しいのは、惰眠童子がいるからなんだね」


「こいつは玩具じゃねぇぞ。いたずらをするのも、もう飽きたんだ。俺様が何かしても町人の反応が冷たくなってきたしな」


 酒呑童子は「俺様があまりにも最強すぎて諦めてんのかねぇ」と、わざとらしく威張り30センチ超えの魚を釣り上げた。


 どこか寂しそうに見えたのは俺だけではあるまい。かまってほしいのだ。小さな子供のように、かまってほしくてわざと目立つことをする。


 そうやって誰かと関わっていないとだめなのだ。鬼になってそれがわかった。思い知らされた。


 ほぼ永遠の時を生きる鬼にとって、何もない1年はあまりにも長すぎる。俺は1年のほとんどを寝て過ごすことができるからまだマシだが、酒呑童子にはそれができない。


 茨木童子や他の鬼も同じ。酒呑童子は仲間を重んじている、命を懸けられるくらいに。だが他の鬼はそうではない。


 どちらかといえば酒呑童子を嫌っている鬼が多い。というのも、我がままなのだ。最強の鬼、頭領であり続けるためなのだろうが。


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