惰眠童子と呼ばれた鬼

親友と金魚のフン

７P

　――それから数年が過ぎ、時々は町にも出かけるようになった。１人ではなく酒呑童子付きで。


　町での暮らしに、人間の暮らしに未練はない。酒呑童子との暮らしが充実しているから、むしろ鬼になってよかったと思ってしまうくらいだ。


　正直、自分の生まれが嫌で嫌で仕方がなかった。武家に男として生まれてきたのに４番目、いらぬ子だと言われ続けてきた。


　なんとか生きていても、恋人も自由に選べない。いらない存在なのに檻に入れられてまるで飼われているようだった。


　ずっと蔵から出られない、そんな俺の話し相手になってくれたのが、ある日偶然うちに来ていた琴音だった。


　用事が終わって帰ろうとしていた琴音が蔵の外を通りがかった時、俺がくしゃみを連発。１０回以上だったか？心配した琴音が声をかけてきた。


　俺は外の人間との関わりを禁じられていたため黙っていたが。「そこにいるのはわかっているんだから、返事くらいしなさい」と壁を蹴った。どの時代も、女は恐ろしいものだ。


　渋々、自分のことを軽く話していると「夜に必ず来るから、寝ないで待ってて」と早口に去っていった。直後、複数の足音が通る。


　変な女だ、どんな女なんだろう？と思った。だが、また会いに来てくれるとは微塵にも期待していなかった。


　だから寝ていた。起こされた。また、壁を蹴って蹴って。俺が起きる前に他のやつが来たらどうする！？飛び起きてそう言えば「大丈夫よ。私、逃げ足だけは自信があるから」だと。


　思えば、俺はこの時から琴音に心惹かれていたんだろう。女のくせに勇ましく恐ろしい、姿も見えぬのに。


　俺が身の上話をすると、彼女も自分のことを話してくれた。そうしているうちに夜明けになり、彼女は「また会いに来る」と去る。