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遠い昔の思い出
9P
しおりを挟む言いたくないのだろう。俺は名乗ってやったのに。代わりに彼は他にも何人かの鬼がいると教えてくれた。数は少ないが、女の鬼もいるとか。
女の鬼はなぜか、そろって見目麗しい美人ばかりなんだとか。ほぼ全員、酒呑童子が手を付けているとか。その話をされた時、酒呑童子から距離をとったのは言うまでもない。
道中、それから家に帰ってからもたくさん話をした。鬼になってから悩んでいたことを全て吐き出した。
俺が話している間、彼は口を挟むことなく静かに話に耳を傾けていた。必ず、俺が話し終えてから口を開く。
俺にはずっと前から将来を約束した恋人がいた。だが俺は四男と言えど武家の生まれで、恋人の琴音は貧乏な町娘。身分格差で結ばれることはない。
駆け落ちしようとしたところで親父にバレてしまい、俺達は2人共殺されそうになった。
琴音は俺だけでも生きてほしいと庇い、あの約束を残して逝った。でも俺は逃げることができなかった。琴音がいない世界なんて滅んでしまえばいい。
琴音が目の前で斬られ大量の血を吹き出して倒れる。その瞬間、俺の中に真っ黒いドロドロしたものがゴポゴポと湧いてきて心を覆い尽くした。
我を失った俺は琴音の肉体を食った。血をすすった。その姿に恐れをなした暗殺者達を皆殺しにし、気が付けば――人間ではなくなっていた。
そのまま逃亡した俺は山奥に逃げ込み、我に返って絶望した。簡単に死ねない体になってしまった。
あまりの絶望と後悔で3日間ほど眠り続け、今日目が覚めたところだ。まさかこんなことになるとはな。
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