惰眠童子と呼ばれた鬼

親友

６P

　明日――と言ってももう今日だが――は出かけることを伝えると、キツネも小娘の家に行って自分の荷物を回収しに行くと言った。


　結局小娘の家は、和比呂が元々の持ち主を訪ねると取り壊して売地にするように決まったらしい。残念なようだが、時の流れには逆らえまい。必要のないものは壊されるのだ。


「……おい、何を笑っている？おかしなことを言ったつもりはないが」


　キツネは笑っていた。何が面白いのか、俺の方を向いてニヤニヤとウザく笑っている。その冗談みたいな顔をブン殴ってやろうか。


「やー、なんか旦那、最近丸くなったなぁと思って」


「…………明日の晩飯は狐の丸焼きにでもしてみるか。はて、イノシシやウサギは丸焼きにして食ったことがあるが、狐は美味いのか？」


「ぎゃーっ！マジな目でそんなこと言わないでくださいっ！？太ったって意味じゃなくて、性格というか雰囲気が柔らかくなったって意味でっ」


「わかっている、冗談だ。俺は優しくなったつもりは一切ない。お前の目が腐ったんだろう」


　小娘に出会ってから変わったと、キツネは言う。気のせいだろう。優しいと思ったのはたぶん、俺が小娘を１週間守ると約束したから。


　結局守り切ることはできずに俺達の約束は死神によって粉々に壊されたわけだが、俺にとって約束は当たり前に命がけで守るものだ。


　キツネは覚えていないだろうが、俺はキツネと出会ったその日、キツネと約束を交わしている。


　人間の女に大切に大切に育てられ、大きく育ったところで毛皮を剥ぎ取られそうになったキツネはがむしゃらに逃げ続け、俺の家の前に倒れていた。


　そこへ久しぶりに外の空気でも吸おうと家から出ようとした俺がキツネに蹴躓き、何だこの白い毛むくじゃらはと気づいた。