惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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不和歌麿呂

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「………………まだ、そうと決まったわけではない。確証がない。なぜこの男を探しているのか、とにかく歌磨呂に詳しい話を聞いてみないことには……」


「いつものあんたらしくねぇな。わかった。この男が誰にせよ、あんたとどんな関係があるにせよ、今は聞かないでおいてやる」


 張り紙を机の上に置き、鎮火した和比呂が溜め息を吐く。すると怯えきった顔の若い店員が「お、お待たせしましたぁ」と、かなり恐る恐る2つの膳を机の上に置く。


 おぼんを持つ手がガタガタ震えて、和比呂が頼んでいたあんみつの寒天が良い具合にプルプル震えているな。


 置いてからが早かったぞ。サッと手を引っ込め「ごゆっくりどうぞっ」と早口で言い終わる前に厨房の奥へ逃げた。


 雅で和やかな店で喧嘩騒動など、悪いことをしたな。追い出されなかっただけまだマシか。注意できぬほど怖い思いをさせたか?


 ユルユルと体験コーナーの方に目を向けてみると、茶を点てている格好のまま驚きと焦りの混じった複雑な表情をこっちに向けている歌磨呂と目が合った。


 濃くも透明度の強い紫色の目が、俺の薄い青の目を捕らえて離さない。しばらく瞬きもせずに見つめ合っていると、「せんせい?」と小さな女の子が歌麿呂の袖を引っ張った。


 歌磨呂は「な、何でもないよ」と体験の先生役を続け、俺は甘味の膳に目を移す。まだだ。まだ、光が差しただけで心の中はモヤモヤ。


 お前は一体、誰なんだ?


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