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気配
8P
しおりを挟む本殿の中から出て振り返ると、そこはやはりただの本堂に見える。とても、だだっ広い庭に囲まれたドでかい屋敷があるとは到底思えない。
現世からから隔離された異空間、とでも言うべきか。天災や人間達が起こす戦争で他の陰陽師家がほとんど滅んでしまったため、やむなく何代も前の秋月家当主が施した高度な術。
陰陽に連なる者達のトップに君臨する安倍家の屋敷を守る結界に比べれば、もしかしたら俺でも壊せるかもしれないが。
最初に結界に触れた時、思ったほどに強くはないと感じた。和比呂が結界を貼り直せるとも思えんが、今度助言してやろうか。
なんて考えながら本殿に背を向けた時だった。急に、空気の匂いが変わった。
瞬間、俺は右にキツネを、左に小娘を抱えて跳んだ。直後、俺達が立っていたところが爆ぜた。
「いきなりか。キツネ」
「ギャンッ!ま、任せろ、じゃ。そんな顔するな。ようは神社を壊さなきゃいいんじゃろ?それくらい僕でもできるって」
「壊したら和比呂に、狐のぬいぐるみに変えられるぞ」
今のは自爆か?とっさに助けてしまったキツネをすぐに放り投げ、俺は小娘を抱えたまま走る。
イノシシの時と同じ、妙な力を持った大きなカラスが8羽。誰かに使役されている感じもするが、この手の術者がこの時代にも?
術者についてはわからずとも、多少妙な力を持った大きなカラスが8羽くらいならばキツネには朝飯前か。
やけに小娘が静かなのが気になるが、なにぶん逃げるのに必死。他に追っ手がいないとも限らぬ。走りながらも常に周りに意識を巡らせ、妙な気配を感じれば避けた。
おかげで、異変に気付いたのは家に帰り着いて小娘を部屋の中に下ろしてからだった。
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