惰眠童子と呼ばれた鬼

あきづき

５P

　つかまれた瞬間に察知したのか手を離した少年は後ろに飛び下がり、俺は素早く錫杖を投げつける。


　矢のように飛んだ錫杖はまっすぐ少年に向かい、後退しすぎて木に背をつけてしまった少年の顔の真横スレスレに突き刺さった。


　わずか５秒、勝負あったな。というか弱すぎるぞ。一撃目で武器を手放すバカがあるか。もう少し粘ってみるとかしてみせろ。


　お前が俺が会おうとしていた男なら、俺が本物の鬼でも戦闘が不得意な弱い部類の鬼だと知っているだろう？


「確かめるも何も、この姿を見せればよいのだろう？無駄な体力は使うな」


　死を直感して固まってしまっている少年の目の前に立ち、俺は本来の鬼の姿をさらした。こいつの一族になら、見せてもいいのだ。


　俺にはわかる。この少年の匂いというか気配には、アイツが混じっている。アイツの子孫である証だ。だが、こんな子供がまさか今の当主なのか？


　少年の黒い瞳に俺の真の姿が映ったのを確認すると元に戻り、様子をうかがう。なんだ、本物を見て驚きのあまり声も出ないか。


　これ以上開きませんというくらい目も口も目一杯開いて、写真のように固まっている。まるでマネキンみたいだ。


　ちゃんと息をしろ、止まっているじゃないか。あぁ、やっと動いたと思ったら手がユルユルと自分の顔へ。おい、頬をつねるつもりか？夢じゃないぞ。


　小娘にはもちろん、キツネにもまだ見せたことはない。そんなにホイホイ本性をさらすものか。それに鬼化する必要も、この平和な時代にはない。


　だがこの少年には、少年の一族には必要ならば見せてもいいのは。約束を交わした特別な仲、だからな。