惰眠童子と呼ばれた鬼

人間の住処

６P

　はぁ。仕方がない、小娘が眠るまでの我慢だ。あと少しだ。三つ編みでも何でも、好きにすればいい。


　出会い、第１印象は散々だったが、小娘が話す話や茶色の瞳には力があった。それが嘘ではなく真のことだと信じられるくらいの、純粋さがあった。


　強い想い、強すぎるか。俺が断れば小娘は全てを諦めて、最悪な最期を迎えてしまう。そう思ったんだ。


　だから信じた。約束をしたのは、本当にただの気まぐれ。眠ってばかりだったから、そろそろ半年くらいはマトモに起きていようかと思っていたし。


　イノシシの襲撃が小娘につきまとう“死”の影響なのか、偶然なのか。野生のイノシシの群れを意のままに操れる人間がいれば見てみたいが。


　何が起こるかわからん。これからは細心の注意を払わねば、些細なことで小娘の命の花は瞬く間に散ってしまうだろう。


「孤吉君、１人で寂しくないかなぁ」


「あいつはあっちの見張りに置いているんだ。お前が思っているほど、あいつは弱くない。あのイノシシの群れを１人で撃退したんだ、その気になれば俺と少しは戦えるくらい強い」


「……それ、後半は強いのか弱いのかよくわからないわよ」


「あいつは俺が唯一、そこそこ強いと認める貴重なアホ狐だ。そういえばお前、こっちに来てからキツネを孤吉と呼んでいるな？」


　キツネは女は苦手だが、人間が大好きだ。大好きすぎて自分も人間になりたいと思うようになった。その強い想いは年々大きく膨らみ、やがて１０年の歳月を経てあの姿を得た。


　元々人間の姿に変身できたわけではない。興味本位で人間の世界に降りてきて、人間の暮らしを観察したのが始まりだと言っていたな。