惰眠童子と呼ばれた鬼

不幸は幸運

１１P

　昔、同じ時を生きた鬼の知り合いに女と見間違うほどの美鬼がいたが。そいつの親友曰く、俺はそいつの次に美鬼らしい。


　今でさえ風呂に入るのをおろそかにしているが、身なりを整えれば今の時代でも通用する…………何だ？イケメン、というのだったか？


　顔は不細工ではないし、背は高く体は無駄な脂肪がなくそれなりに筋肉がついているからな。それから、キツネが言うように色白で中性的。


　昔は、ガタイのいい人間の男や鬼仲間に襲われそうになったこともある。解せぬ。なぜ襲われる側なんだ？という冗談は置いておいて。


　襲われるたびに、どこからともなくアイツが――俺を鬼の仲間に引き入れたアイツが助けてくれたもんだ。それも、「コイツは俺様のモンだ、手を出すんじゃねぇ」と。


　アイツには誰も逆らえないから、襲ったやつは素直に引き下がる。だが俺は「俺は誰のモンにもならぬ」と、礼を言う代わりにアイツの股間を蹴り上げたんだったな。


　鬼達の頂点に君臨するアイツのお気に入りだった俺が気に食わないやつは少なくない。そういうことは、よくあった。


　たくさんの女鬼を侍らせていたアイツにオトコのシュミがあったとは考えにくいが。どうせ、寝てばかりいるのが面白いのと、俺がアイツに反抗的なのが楽しいからそばに置きたかったんだろう。


　俺の胸と下半身を手で隠して見るキツネの頭をパシンッと叩き、浴室に足を踏み入れた。この時代のまともな風呂なんて初めてだな。


　ボロい。初めての俺にもわかる、酷いボロさ。天井や壁は黒ずんでいて所々ヒビが入っているし、浴槽に穴があった跡がある。自力で直したか。