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手を伸ばして
4P
しおりを挟むあたしもアソラさんの隣に座って深々と頭を下げる。どうすれば許してくれるのかなんてわからないけど、あたしにできるのはこれくらいしかない。
嘘は言ってない。熱はたぶん、この雨の中を歩き続けていたんだろうし出てるはず。おじいさんが言うように、アソラさんの深い空色の瞳は虚ろでちゃんと見えているのかすら怪しい。
突然現れたあたしに目を向けていたアソラさんは酷くボロボロで。何があったのか体のあちこちに細かい傷が見える。
やがて手に握っている真っ赤な椿の花に視線を落とす彼は、再び震える声で言葉を紡ぐ。
「美味しかったです、ごめんなさい。反省しています。おじいさんがこの椿を大事に育ててきた想い、花を食べて伝わってきたんです」
美味しかったって言っちゃったわよ、この人!?何気に天然なの?
おじいさんもポカンとしちゃってる。庭木のミカンを食べちゃうのと同じ感覚で椿のお花を食べちゃったんだから、戸惑いを隠せないんでしょうね。
怒りの向こうにどう叱ればいいのか悩んでるのが見えるわ。しかも美味しかったなんて褒められて。1歩下がっちゃった。
「…………もういい。クソガキの反省と連れの必死な謝罪に免じて許してやる。クソガキは顔色が悪い、今日は泊めてやるから上がりなさい」
クソガ――じゃない、アソラさんを見つめ。かわいそうなことになってる椿の木を見つめ、傘も持たずに彼の隣で頭を下げ続けるあたしを見つめ、そしてまた椿の木へ。
深く息を吸い込み、大きな大きな溜め息を吐いたおじいさんは「ついてきなさい」と母屋へと顎をしゃくる。
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