花喰みアソラ

那月

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両手を広げて

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 雨が降ってきちゃったの。慌てて外に置いてある鉢花達を中に救助して、2階に駆け上がって洗濯物も救出。天気予報では1日晴れだったのに。


 爆走したから自分の足につんのめっちゃって派手にこけたわ。しかも顔から。ゼェハァゼェハァ息を乱して水を飲んでいる時だったわ、彼が言葉を紡いだのは。


 雨だし、今日はよりいっそうお客さんが来ないって思ったのね。そうよ。雨の日なんて1人か2人、最悪の場合誰も来ないんだから。


 レジのカウンター前に置いてある木のイスに腰掛けた彼の隣に、あたしもイスを引っ張ってきて座る。


「アソラは1人ではなく、ミラという女の花喰みを連れていた。ミラには他の花喰みにはない特殊な力が備わっておったが――」


 それは、植物の病気を自分の体に移して自力で治癒するという“身代わり”の力。


 いよいよ人間離れだわ。ファンタジーな魔法レベル。植物にも人間にもとても優しく超お人好し、だけど負けず嫌いで芯の強い人だったと彼は言う。


 え、「だった」?ということはもしかして、ミラさんってもうこの世にはいないってこと?


 元々アソラさんとミラさんは2人で旅をしていたんだけど。藤の雨の病気のことを知ってミラさんがすっ飛んできたと。


 植物の専門家でもお手上げの、末期のコブ病。広く広く伸ばされた何本もの蔓や大木本体にいくつもの、大小さまざまな黒っぽいコブができていた。


 コブが多すぎて落葉したり細い蔓は折れてしまったりと、あとは枯れ果てて死を待つのみ。


 それは藤の君本人にも、アソラさんにもミラさんにもわかっていた。けれど彼女は1歩踏み出し「そのおでき、全部あたしがもらうわね」と幹に触れる。


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