花喰みアソラ

那月

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両手を広げて

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 他の花妖達と違ってあたし達人間を傷つけようとしないし、その衝動を我慢しているようにも見えない。誰かの強い感情に左右されているわけでもなさそうだし。


 何より、神々しい。生きてきた年数っていうのもあるんだろうけど、存在が安定していて余裕があるって感じ。


 本能に完全に呑み込まれてしまったサボ君を元に戻したし。花妖の世界では確実に上の方に君臨する、神様なのかもしれないわね。考えすぎ?


 ミラって、アソラさんと藤の君さんとの話に出てきた3人目の人?名前からして女の人みたいだけど、もしかして……


「アソラのことを知る覚悟があるか?あやつが隠し通そうとしてきた、他の誰にも知られたくない過去を。それも本人の口からではなくわしの口から知るという意味が、よもや分からぬわけでもあるまいな?」


 藤の君さんがあたしの顎をつかんで上を向かせる。強制的に目を合わせられ、視界いっぱいに藤の君さんの真剣な顔。


 そんなのわかってる。もしもあたしだったら。あたしの黒歴史を知らないところで知られるのはすっごく嫌だし、ものすっごく怒る。


 でもそれがあたしを想ってのことだったら。グズグズしたのちに鎮火して、最終的には「ありがとう」って許しちゃうの。それがあたしなの。


 アソラさんもあたしと同じだとは思わない。それでもあたしは、まっすぐ深い紫色の瞳を見つめてゆっくり首を縦に振る。


「ふむ…………ならば今宵はもう寝なさい。明日、わしの記憶の欠片を見せてやろう」


 今日はもう遅いからと、そう言って藤の君さんはあたしから目を反らし背を向ける。絹のように柔らかそうな長髪が宙を泳いだ。


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