花喰みアソラ

両手を広げて

１Ｐ

「己と人間の心に呑まれて醜い姿になってしもうて。幼き金シャチの子よ、わしが全てを浄化し元の姿に戻してやろうの」


　真っ黒いトゲに覆われていたサボ君の体を引き寄せたのは、何本もの細いツル。おかげでアソラさんの口は空気しか食べられなくて。


　つんのめって倒れそうになった彼を、別のツルが伸びてきて突き飛ばす。あたしは、アソラさんに駆け寄った。


「がぁぁぁぁっ！！あぁぁあぁぁぁ……っ、うぅ……はぁっ、はぁっ、はぁっ……あ、れ、俺っち……」


　振り返るとサボ君が、完全に姿が見えないくらいにツルに巻き付かれていたわ。まるで茶色いミイラみたい。


　最初は暴れていたけれどツルの強い締め付けで動きが止まって、声が聞こえなくなって。トゲも見えなくなると中から光があふれた。


　とても優しい、品のあるお花の香りがあたりに広がって、シュルシュルとツルがほどけていくとそこにはサボ君がいた。


　多少折れているけどそんなに大きくないトゲ。最初に怒りが爆発して叫んでいた時の、可愛いサボ君が驚いてキョロキョロしてる。


　これは一体どういうことなの？アソラさんが「もう助けられない」って言っていた、堕ちた花妖が堕ちる以前の姿に戻るなんて。


　それに今の声とツルは？サボ君の体から離れていくツルの行き先に目を向けると、薄紫色の何かが見えた。


「藤の君、様……なん――んぶっ！」


　サボ君の黄緑色の目玉が飛び出してしまいそうなくらい、彼はその人から目を離せないでいる。驚きと恐れとが入り混じった震える声は、それ以上続けられることなく途切れた。