恋人以上、永遠の主人

変身

４P

「正直に言おう。私はね、ドラゴンなどという西洋の怪物を鎮める力は一切持っていないし、さらに言えば式神に心を与えるなんてこともできないただの天才陰陽師なんだよ」


「なっ……え、ど、どういうことよ？じゃあ、あたしは自分でこの心を作ったっていうの？自然発生？」


　傍らに立ちドラゴンを見上げる晴明様曰く、マクベスは晴明様と出会った日を含めいつも自力でドラゴンを封じていたんだって。


　晴明様はただ、彼に抗うことを諦めないよう働きかけることしかしていなかった。混乱する彼に「大丈夫だ」と声をかけ、マクベスがマクベスであることを見失わないよう嘘を吐いた。


　あたかも石があるからドラゴンには変身しない、マクベスのままでいられるんだと信じ込ませ勇気づけるために。


　その事実に彼はいつ気づいたんだろ？気づいていたからこそ、あたしに「最期はドラゴン化する前に殺してくれ」なんて悲しい約束をさせたのよね。


　けれど、羅刹があまりにも絶望的なくらい強いから、彼はあたしとの約束を破り最悪で最後の手段を選んだ。


　ずっとずっと心の奥底に閉じ込めていたドラゴンを自ら解き放ち、その強大な力を羅刹にぶつける。確かに、これほどまでにもおぞましい力なら倒せるかもしれない。


　でも、そのあとはどうするのよ？ドラゴン化しちゃったら誰にも止められない。過去のイギリスでそうだったように、見境なく人間を襲い食らう殺戮兵器になっちゃうんでしょ？


　だからドラゴン化する前にって言ってたじゃない。どうすんのよ？自爆でもできるようにお腹の中に爆弾とか持ってるの？


　悔しい。あたし達がもっと強かったら、もっと力に頼らなくても良い作戦を考えついていたら、マクベスはこんな方法を選ばなくて済んだのに。