恋人以上、永遠の主人

那月

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戦友は一時休戦、家族団らん

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「おお! 戻りやがったか皇子」

 黄金の鬣をなびかせた獅子の男が、千騎長の鎧に身を包んだ勇壮な姿でこちらへ大股に歩いてくるところだった。背中にはもちろん、愛用の大剣をかついでいる。

「レオ!」
「おお、黒坊主。見てたぜ~。かっけえ狼になれるようになったじゃねえかよ~。しかも自分ですぐに戻れたみてえだし。やりやがったな!」
「あうっ……。あ、ありがとうございます」

 にかにかと意味深な顔で笑うのもいつも通り。そのままがしがしと頭を撫でられると、ぎゅんっと勝手に体温があがり、バカみたいに嬉しくなってしまう。
 この男はいつでもどんな場面でも「いつも通り」を崩さない。軍のリーダーという立場の人として、これほど頼もしい男もいないだろう。
 と、インテス様がシディの頭から男の手をぺいっと払った。

「……馴れなれしく触るんじゃない。大体だれが『黒坊主』だ失礼な。撤回しろ」
「なんだよー。男の嫉妬はみっともねえぜ~?」
「ふん」

(えっ……。嫉妬?)

 嫉妬と言ったのだろうか、この男。
 まさかインテス様が自分ごときにそんな風に思われるわけがないのに。そう思ったがレオが登場したとたんに口を差しはさめる空気でなくなるのはいつものこと。
 「さあさあ、こっちだ。まずは落ち着こうぜ」とどんどん執務室へと案内され、茶菓など出されて座らされるまで、ひたすらレオとインテス様だけの会話で満たされてしまう。この男のペースに逆らえる者なんてまずいない。

「で? あれからどうなんだ」
「特にどうもしてねえ。神殿の魔導士どもは時々攻撃しちゃあくるが、こっちの魔導士にとっちゃでもねえ。やっぱり《白》と《黒》を認めてるかそうじゃねえかってことは大きいらしいな」
「そうか」
「特にあのマルガリテのおばちゃんな。ありゃあとんでもねえ曲者くせもんだ」
「えっ? どういうことですか」

 びっくりして腰を浮かせかかったシディに、レオはやっぱり意味深な笑みを返した。

「イタチの爺さんの前じゃ盛大に猫かぶってやがったのよ、あのおばちゃん。ま、猫じゃなくてワニなんだけどよー」
「はい?」
 きょとんとしたシディに、レオはそのままの顔で肩をすくめて見せた。
「まあ、とにかくすんげえ攻撃魔法でやんの。物理な俺らの出番なんてありゃしねえわ。あのおばちゃんがちょちょいと水魔法で攻撃するだけで、みーんな尻をからげて逃げだしちまう」
「ふわあ……そうなんですね」
「そーなんだよー。お陰でこちとら運動不足だっつーの。けどまあ、やつらが逃げるのも無理はねえ。あんなえぐい水死なんてしたくねえわな、誰だってよ」

(ううん……すごそう)

 前にも少し見たけれど、あの大瀑布よりも凄い攻撃が連続してやってきたら、どんな猛者でもひとたまりもないだろう。つくづく魔塔を敵に回さなくてよかったと思ってしまう。

「魔塔に入りこんでやがった間者だの暗殺者だのも、ほぼ潰せたしな。今じゃここ以上に安全な場所はねえ。各地に散って地下にもぐってた反皇太子派の連中も、うわさを聞きつけて集まりはじめてんぜー」
「そうなんですか」
「大丈夫なのか? 味方が多いほうがいいとはいえ、身元もわからぬ者らをあまり増やしても──」
 言いかけたインテス様に、レオはぱちんと片目をつぶって見せた。
「問題ねえ。ちゃあんと魔導士どもが高位魔法で心を読んだり、身元調査もしてから入れてる。そこは安心していい。あれをかいくぐれるのはサクライエ本人ぐれえだかんな」
「なるほど」
「もともと反皇帝派だったやつらも多い。あの皇帝、自分は贅沢三昧やらかしといて庶民のこたあそこらのゴミ以下の扱いしかしてこなかったかんな。それがあのボンクラ皇太子になったところで、自分たちの状況がひとつも好転するわけじゃねえ。それどころか、ずっと悪くなるってよーくわかってんだよ、学のねえ庶民だってな」
「あの」
 シディはそこでやっと口を挟めた。
「魔塔に来た人の中には、神殿でスピリタス教を信仰してた人たちもいるんでしょうか」
「おお、けっこういるんだわこれが」

 レオがにかっと笑って説明してくれた。
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