恋人以上、永遠の主人

那月

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ナツメと安倍晴明

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「いくら稀代の天才陰陽師の晴明様でも、死んで何百年も経ってるのに生者の夢に干渉するなんてできるわけないわ。さっさと消えなさい、ニセモノ」


「おやおや。その天才陰陽師、安倍晴明の式神であるお前は恋い焦がれる本物と己が作り出した偽物の区別もつかなくなるほど落ちぶれてしまったか?そうかそうか、いや残念だ」


「こっ、恋い焦がれてなんかないわよっ!!尊敬してるのっ」


 ニヤニヤするなぁっ!1発ブン殴ってやろうと立ち上がり拳を振り上げたんだけど、彼が略式の印を結んだ左手を振ると体の自由が奪われ、彼の腕の中に引き寄せられる。


 彼の所有物であるあたしは、逆らうことができない。あれよあれよという間に抱き寄せられ、感じる温もり。


「ほう、それは初耳だなぁ?ふむ…………少し見ぬ間にずいぶんとらしくなったようだ。む、ほう?この唇、ついに奪われてしまったようだな?」


「っ!!う、うるさいわね。あれは事故よ。疲れが溜まりすぎておかしくなっちゃったマクベスが起こした、事故」


 天才陰陽師ともなると、普通は両手でなければ結べない印を、簡単な術なら略式の印で片手で結び発動させることができる。


 まるでその場所にあるのが当たり前のように。あっけなく、彼の腕の中に納まってしまったわ。膝の上に座っちゃってるし、あたしは子供じゃないっていうのに。


 あたしの唇を指でなぞる、笑みを浮かべる晴明様。今も昔も、からかうのが好きなのは変わらないわね。


 すぐ近くであたしの真っ赤になった顔を見つめる切れ長の黒い瞳が、あまりにも懐かしくて胸の奥が大きく脈打った。


 本物だわ。あたしの夢の中で膝の上に座らせあたしの肩を抱いているのは、まぎれもなく安倍晴明本人。


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