ユキ・シオン

ユキ・シオン

５P

「文字の中、まだ汚れてるだろ。使わなくなった歯ブラシで、中を軽く磨いてやれば塗装が剥がれずにできるから。ほら、こんな風に……」


「おー、なるほど。さすがだな。さすが、主婦より主夫」


　黒い墓石はピカピカでも、白い文字の中はコケが生えていた。そうだろうと思っていたから、ケバって使わなくなった歯ブラシを捨てずにとっておいたんだ。


　２人で歯ブラシを手に隅々まで磨いて、これでやっとピカピカだ。…………うん、完璧。


　掃除が終わったら切り花をさして、笑也のおじいさんの方にも少しだけどおすそ分けをして。ばっちゃんが大好きでいつも食べていたミカンと、コップに透明なシュワシュワを注いでお供え。


　ばっちゃんさ、超意外だけどサイダーが大好きだったんだ。もちろん高齢なばっちゃんにはキツくて滅多に飲まなかったんだけどさ。


　気が向いた時に買ってきては「たまには刺激が欲しくてねぇ」って、一口ずつ飲んで体を震わせてたんだ。涙目になっても笑顔で「美味しいねぇ」って、飲みきれない分は俺がもらっていた。


　余ったサイダーは俺と悠一で飲み干して、３人で分け合った。一旦周りのゴミとかを片付けて、改めて墓石の前に立つ。


「ばっちゃん。１年なんて、あっという間だったよ。あの日、ばっちゃんが気づかせてくれた俺の好きな人、大切な人。ずっと一緒にいる、これからもずっと」


　直也に襲われてから入院中のばっちゃんに呼ばれて、そこで悠一への気持ちに気付かされた。ばっちゃんが、背中を押してくれた。


　悠一の話はしていたけどさ、紹介はしてなかった。ちゃんと会ってほしかったな。ほんと、遅くなっちまってごめんな。