ユキ・シオン

本当の愛

３P

　でもその気持ち悪い匂いの奥に、悠一の匂いを感じる。あっち。蛇が叩きつけられた壁のすぐ横にある鉄の扉。


　あの奥に、悠一がいる。タバコがなくても確信する。そこにいる。「悠一っ！」思わず、声が出た。笑也の手を離れて、扉に体当たりも同然にしがみつく。


「待って。落ち着いて、シオンさん。ゆっくり、深呼吸。そう。わかるから。早く会いたい気持ち、俺にもわかるから。でも落ち着いて。でないと、死ぬぞ」


　しがみついたドアノブを回そうとしたその瞬間、扉から引きはがされた。


　気づいたら俺は笑也の腕の中にいて、両手首をつかまれてバンザイ状態。目が合った。真剣な黒い瞳に、情けない俺の顔が映っている。


　後ろから俺の体を包み込む長い腕は、決して力強くて振りほどけないってわけじゃねぇ。だがなぜか振りほどけない。


　言われた通りに深呼吸をして、早鐘を打ちまくっていた心臓が落ち着きを取り戻す。こめかみを、汗が伝い落ちた。


「悪い。もう、大丈夫だから。ありがと」


　そう言えばすぐに離してくれた。本当にこいつは俺より年下かよ？って思えるくらい、頼もしくてドキッとした。ただの人間の笑也は怖いはずなのに、やけに落ち着いている。


「先に白状しとくけどさ。シオンさんが蛇に噛まれた時、怖くてちょっと…………ちびった」


　前言撤回。しっかり、落ち着いてねぇ！！ちびった状態で俺を抱きしめたのかよっ！？