ユキ・シオン

蛇は卵を丸飲みします

２P

　この研究所に勤める研究員、兼被験者である大隈さんが事故で亡くなった。それを、香さんはもしかしたら事故じゃないかもしれないと考えているドクトルを信じて調べに来ていた。


　今日研究所に来たのも、俺の保護ついでにまた調べるためだろう。


　細い顎に手を当てて考え込む千川原に１歩踏み出し、コツンッと頭を小突いてやる。怖くない、積極的に行け、だ。


「お前が調べてもわからなかったんだろ？なら、目がいい緋桜と香さんに任せていればいいさ。それよりも千川原、この研究所内で銀色の指輪を見なかった？」


「銀色の指輪？ネコヤンさん、ついに結婚したの？そんな大事なもの、なくしたらだめじゃん」


「いや、結婚指輪じゃなくてただの…………ううん、大事な、指輪なんだ。持ち主に返さないといけないしさ、もし見つけたら教えて欲しい」


　前半、真実。後半、嘘。持ち主に返さないといけないだなんて、自分のなのによくそんな嘘をさも本当のことのように言えたもんだ。


　見ろ、千川原は疑う様子もなく「わかった！」と張り切っているぞ。これは、研究所内をくまなく探しに走るんだろうな。


　千川原は根は優しいんだ。お人好しというか、困っている人を放っておけないタイプ。


　ドクトルになすりつけられた大量の仕事があるだろうに、千川原はずっと手に持っているバインダーに「ネコヤンさんの銀の指輪、探す！」と書いた。