ユキ・シオン

ハッピーバースデー

１０P

「和服かぁ。なら、擬人化種の知り合いが経営してる店があるよ。尋常なく高いけど。しかもその知り合い、千川原レベルの危険人物だけど、見に行くか？」


「野放しにしてていいのかよ。気を付けるから、行って良いなら行きたい」


　うっ、よりによって１番高い和服。しかも、呉服では高級ブランドのあいつの店に行くのか。まぁあいつも、初見かつ誕生日の客なら多少は割引してくれるだろう。


　千川原のような危険人物のあいつは、シオンにはほぼ無害だろう。あいつは弱者は吐き捨て強者に襲いかかってくるやつだし。


　シオンと俺なら、圧倒的に俺が襲われそうだ。いや、襲われるの確定。まぁ、仕事中なら人間もいるし普通の人間のフリを貫き通すだろうが。


　この街のほぼド真ん中にある、タカミヤコーポレーションという名の呉服店。見上げれば首が痛くなる、高い高いビル。このビルの全てがタカミヤコーポレーション。


　アポなし。怒るだろうなぁ。


「な、なんかさぁ……俺、想像してたのと全然違う。お門違いっぽいし、やっぱり普通のショップで――」


「１歩踏み入れただけで怖気づいたか、クソガキ。うちの客は高給取りが中心だし、自分には合わないからと相応のショップに逃げるのもいいけどな。うちには小学生の顧客も何人もいる、客の年齢や性別、職業なんかに合わせた接客に自信がある。中身を見る前に逃げ出すのはただの負け犬だと知れ、クソガキ」


　大きなガラス張りのドアを抜けて広いロビー。可愛いけれど気品のある着物に身を包んだ受付嬢の隣に、運悪くあいつがいた。