ユキ・シオン

悪夢再び

８Ｐ

　目を向ければ指先まで血が流れている。どうせ最中に、落ちていた包丁で切ったんだな。長さ１５センチくらいの赤い口がパックリ。


　なんで今まで痛みに気付かなかったんだよ。マタタビの効果か？酔っ払いは事故っても酔っているせいで痛みを感じないって言うしな。なんて思いながらも、服の裾を裂いてとりあえず巻き付ける。


　右利きだし、やりにくい。口も使って、たっぷり時間をかけたはずなのにユルユルで。イライラしつつも巻き直す。


　やっとトイレから出て、公園を去る。どうしても力が入らないので仕方なく近くのコンビニに入り、５００ｍｌの牛乳を購入。


　直接紙パックに口をつけて飲みながら歩く。心なしか、気分的にちょっと回復。


　無音の暗闇の中、足を引きずりながら歩く足音だけがやけに響いて聞こえる。数歩歩いては立ち止まって休憩。また歩き出して休憩を繰り返す。


　どれくらい歩いたのか。聞こえてくる足音に違和感を覚えた。タイミングを合わせるように、けれどわずかに遅れて足を止める音がする。


　ストーカーか？チビチビ飲んでいた牛乳の３分の２ほどを一気に流し込み、近くの電柱にもたれかかる。


「シオン？」


　人通りのない真夜中の路地。誰もが寝静まるこの時間帯に、しかもこんな場所で声をかけられるなんて思ってもみなくて。


　俺は恐怖のあまり振り返ることなく駆け出した。けど俺の体は弱りきっていて、２歩目でガクンッと転倒。


　しかも怪我をしている右腕を敷いてしまいうめき声が漏れる。声の主らしい人の手が俺の肩に触れて、俺はとっさに跳ねのけた。