ユキ・シオン

真実と嘘と現実

５Ｐ

　遠くから、騒ぎを聞きつけた他の先生が集まってきたから。逃げるしかない。


　真実を口にしても直也には傷一つ付かない。実際、さっきの騒ぎもなかったことにされちまうんだろう？


　だが、直也に直接傷をつけられたのはよかった。興奮していたとはいえ、まさか猫化が起こって引っ掻いてしまうなんてな。


　俺はそのまま大学を出て、白猫に変身すると家に帰った。


　帰るなりシオンに戻って風呂場に飛び込み、熱いシャワーを浴びる。臭い。体中から直也の匂いがする。嫌な匂い。


　浴びながら、濡れてピッチリくっついてくる服を全部脱いで洗濯にかけ全身を洗う。


　血がついている爪は徹底的に。３回。時間をかけて念入りに洗う。のぼせてクラクラしてきて、やっと風呂から上がっても、直也の匂いは消えない。


　いや、たぶんもう消えているんだ。けど俺は感じる。胸糞悪い匂いを。


　そういえば興奮して爪が出ちまったが、もしかして耳や尻尾も？あの時の周りの奴らの様子を思い出してみたが、そんな風には感じなかった。じゃあ爪だけか。


　まぁ、あの時耳や尻尾が出て俺が白猫の擬人化種だってバレてももう、どうだっていい。俺はもう、決めたから。


「先生、ごめん……俺のせいで、こんな……っ」


　悔しい。先生は命がけで俺を助けてくれたのに。俺には先生を救うことができねぇ。俺が弱いから。


　先生みたいに腕っぷしは強くねぇし。せめて……店長先輩のような獰猛なジャガーの擬人化種だったら。本当の姿になって襲いかかっていた。喉を食いちぎっていたのに。


　なんで白猫なんだよ。ほんっと使えねぇ、面倒で嫌な突然変異だ。